「ライオンは今夜死ぬ」
流して見ると、何がなんだかよくわからないが、少し立ち止まって考えると、なるほどと頷けるところがある。
彼女はたぶん彼を、日本民話風に言うと、とり殺しに来たんだろう。
とり殺すと言うとちょっとおどろおどろしいが、そこはまあ南仏だし、そうさな・・あの世へいざないに来た、とでも言っておこうか。あなたもう歳なんだし、そろそろいいんじゃない? みたいな。
これはね、生きる希望を失いかけている男には効きますよきっと。
実際、蝋燭の光と闇がまざった部屋のシーンなんか、鬼気迫るものがあるし。
という具合に下地をつくっておいて、さて、それとはまるで別の世界の住人たる子供たちが、対置されているわけです。天真爛漫、屈託がない、光り輝く、さんざめき、そういう言葉そのものが踊り跳ねているかのような子供たちが。
この陰陽の対比はとてもいい具合ですよ。
彼は子供たちのおかげで、もうちょっとこの世にいようかなと思うわけだ。
そんなことは一言も口にしない代わりに、ライオンの歌を歌って心情を吐露するのです。
彼女はそれを悟って湖へと消えていく。「じゃね」という軽い口調で、まあ、いずれはこっちへ来るんだし、もうちょっと待ってもいいわ、みたいな。でもちょっと惜しかったな、もうちょっとだったのに、てへぺろ、みたいな。
君が若くして亡くなったのは本当に残念だ。でもそれは人の運命というものであって、僕にはどうしようもないことなのだ。君を追ってあの世へいくことなんて出来はしない。
そんなことは一言も口にしない代わりに、彼は海の歌を歌うのです。
彼女に取り込まれれば、それはそれで湿っぽいいい話だし、
まあ、また今度にするよとなれば、それはそれで、からっとしたいい話。
ライオンはどこにでもいるということも、子供の中の一人を通して触れられていて、少し襞もあった。
南仏という光のイメージにとても似合う素敵なお話でした。
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