「ダンケルク」
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これでもかという感じで作り込んできたクリストファー・ノーランの映像を見る映画。ある種の本物感が感じられて、歴史的事実を疑似体験するにはいい作品なのではないか。
少し話は逸れるけれど、20世紀的な戦場の酷さの描写という点では「プライベート・ライアン」の冒頭に勝るものはない。なにしろ、上陸用舟艇の扉が開いたとたんに正面から機銃掃射を受けて小さな船に詰め込まれた兵隊はただの肉布団として死ぬだけ、なのだ。家畜の屠殺と同じ。
せいぜいが、相手の弾薬を費消させる程度だから、まあ一種の消耗品だ。
だから戦争だとか国防だとかについて勇ましいことや美談を言う人には気を付けた方がいい。
幸いというべきか、本作はそういうものとは違って、大袈裟な身振りのドラマはほぼ無し。反戦でもなく国威発揚でもなく英雄賛歌でもない、ただただ、こういうことがたぶん起きる、実際に起きた、と思わせることを描いてみせている。30万人の撤退という規模感はさすがに出せなかったが、このくらいがまあ限界でしょうか。
でも、この作品の価値は、それとは違うところにあった。
どういうことか。
最後に、穏やかに滑空するスピットファイアが、とても美しかった。
あの美しい滑空は、そこまでの話の展開と、間の取り方があってこそ。それに加えて絵の質感。
2時間に渡って淡々と描かれてきた醜さや悲しさ、苦悩や葛藤、気高さ、人としてあたりまえの規範、それらがないまぜになって、この最後の静かなシーンに凝縮され、昇華されているようだ。
この映画はたぶん、微かなメッセージを一度織り込んだあと、それを洗い落として仕上げた、芸術作品なのかもしれない。
まさに映画は総合芸術ということが顕わになった、貴重な体験でした。