「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
このお話には、すっきりした結末はない。
それが却ってお話のリアリティを増している。
主人公はある虚無を抱えて生きていて、それを周囲は癒そうとするのだが、本人は拒絶しているようなフシがある。
亡くなった彼の兄は、遺言で、主人公に遺児の後見を託す。それは頑なな弟の心をなんとか開かせようという配慮だったのかもしれない。
一体この男の過去に何があったのか。前半はその興味で引っ張られる。全体に暗いトーン。
癒しがたいその傷が明らかになってから、見る方は少し居たたまれない気持ちになる。そういうことでは致し方ない、と思う。
そこに、少し明るい要素がいくつか加わって、これはいい方向に向かうのかと期待が芽生える。過去の棘だった相手の態度の変化であるとか、あるいは、開放的て冷たく爽やかな海の空気であるとか。
男なんて単純だ。
ボートに乗って海に出て風に吹かれれば、結構嫌なことだって吹き飛ばされてしまう。マンチェスター・バイ・ザ・シー。
とはいえ、やはり完全に元通りになることはない。男は彼なりに、折り合える点を探して、周囲の協力を得て着地する。
彼の虚無は少し癒されたけれど、もともと放浪タイプの人間に、人並みの責任は担えない。
それに、時間は巻き戻せるものでもない。誰だって、回復しがたい傷を抱えて、それでも生きていくしかない。
そういうタイプの人には、じんわりくる作品でした。
そういうタイプではない人が見たら、ちょっと得心がいかないかもしれません。
ところで、公式サイトのコメントの中で、西川美和さんの文が光る。
この映画を評価する人は、たぶん同じことを感じて、しかしこれほど短く的確な言葉にはできない。さすがです。