「パーソナル・ショッパー」
クリステン・スチュワートには色気がありません(断言)。だから却ってニュートラルに観ていられます。そういう人間が霊媒師を演じるというのは、なかなか良い設定です。むんむんした人だと、霊魂の微かな徴なんて見えないだろうから。愛くるしい人でもたぶんだめでしょう。
いや、皮肉ではありません。
いや、もちろん作中で男性誌にスカウトされるエピソードは皮肉以外の何物でもありませんが。思いっきりいじられてませんか?(笑)
そういう状況でもめげずに演じるクリステン・スチュワートに、ちょっと好意を持つわけです。はじまりの薄暗い屋敷のシークエンスは、とてもいい雰囲気です。これは哀しく切ないゴーストの話なんだろうなあ、という期待が高まります。あくまでも期待です。
それがなぜ、パーソナルショッパーという職業なのか?
そこに特に理由は思い当たりません。華やかなセレブの衣装を彼女に着せてみたい作り手の願望でしょうか。
強いて言えば、霊媒師の暗く涼しい内面をセレブの派手でホットな衣装で包むことで、独特の空気が生まれているような気もしないではありません。かなり適当ですが。
お話はそのパーソナルショッパーの、値段?なにそれ?的な精力的な買物ぶりと、霊魂なんていう辛気臭いものとの間をあちこち飛びます。買い物にカルト。女性は喜ぶんでしょうねえ。よくわかりませんが。
セレブが自宅のベッドの上でストレッチだかヨガだか不明な運動をしながら、隣の椅子に弁護士を侍らせてスマホで遠くのクライアントと電話会議してたりするシーンなんかもあって、布団の上で柔軟体操を欠かさないおばちゃんたちのハートを鷲掴みにしたりします。カンファレンスコールなんて間違ってもいってはいけません。電話会議です。NTTだってそう呼んでいます。
そうこうしているうちに、突然のっぴきならない事件が起こって霊のせいなのかどうかわからん状態に陥ります。でもって、なんだかわからんうちに見たような奴の顔が出てきて街中で鉄砲ぶっぱなしてそいつが犯人間違いなしということで一見落着したりします。
ここまで、もう主人公も観客も振り回されまくりで、霊が居るのか居ないのかどうでもよくなってきます。まあ、霊の方は、ぼくはここにいるよアピールをスクリーンの中で一生懸命続けているので、たぶん居るのでしょうけれど。
なんだか疲れてどうでもよくなった彼女は、遠く砂漠の国にいる疎遠なボーイフレンドのところへと河岸を変えます。我々ももうどうとでもしてくれという気分です。
旅路の果てにそこで彼女が遭遇したものは。。。
ユーモアですね。最後のドーンは明らかにユーモアです。我々を微笑みながらおちょくっておるのです。
ここの最後の表情はさすがにクリステン・スチュワートもしっかりキメてくれました。ここが締まらないとシャレになりませんから。
まあ、ユーモアがわかるなら、そうおそれかしこまる必要もないと思いますが。
という具合で、話の筋を追うよりも、テイストを味わう作品という感じです。その点では、わるくない出来です。
クリステンス・チュワート、目は口ほどにもモノを言わない演技だったのが、それでもだいぶ上手くなった気がします。
シャネルの新作香水の顔にも決まったそうだから、世間の下世話な評なんか気にする必要はないでしょう。この調子でばりばりやってほしいです。