「TSUKIJI WONDERLAND」
魚食文化と、それを支える職人達を活写した、価値ある映画。豊洲への移転問題でもめにもめている築地だが、移るにせよ留まるにせよ、この文化は引き継いでほしいという気にさせる熱量がある。
ここに描かれる魚流通の終点となる高級料理店には、全く縁がないけれど、そういうフィッシュ&チップスしか知らない程度の私でも、心底そう思う。
その文化の魅力は、なかなか一言で言い表しがたいけれど、魚の生食を可能にする、人々の間の信頼の繋がりと、魚や料理や季節や調理方法の多様性は、筆頭に挙げられるだろうか。
流通のどの段階でも、客が求めるものを細かく把握して、季節ごとに最適なものを、情報とともに提供する機能は、中間流通が持つ付加価値の粋と言えるだろう。
規格品の流通であれば、中間流通というものは、中抜きすればするほど社会全体にとって利益がある。近代化というプロセスはそれをゆめ疑わずに押し進めてきたものでもあったろう。
しかし、そればかり見て育った我々は、ついには全てのものを規格化しなければ気が済まないという病に、取り憑かれていないだろうか。
同じ魚種でも、個々に顔も姿も脂の乗り具合も異なる魚たちを、きちんと見分けて値付けし、料理人の日々変化する要求に合わせて取引していく仲卸達を見ていると、人間まで試験と資格によって規格化しようとする近代社会と、その中で生きている自分に、自ずと疑問が湧いてくる。それが、この文化が引き継がれてほしいという願いに繋がっていく。
世界に唯一とまで言われるこの文化を失いたくない。そういう思いに駆られる一本でした。
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