「エル・クラン」
誘拐を影の職業とする一家のお話。アルゼンチンの実話だそう。
法治や福祉がそれなりに機能している社会で生きていると、とても信じがたいようなお話。軍政というものの名残なのかもしれないが。
クランというのは部族とか一族のような意味だそうだ。映画の中では、”有力者”という言葉が何度も出てくるが、世の中の仕組みが、有力者の庇護とそれへの貢献ということを基礎に組み立てられているのだろう。
自分が庇護を受ける有力者が文字通り有力であるうちは、身代金誘拐殺人のような非倫理的な生業もそれなりに順調で、光と影はあるものの、楽しい人生を送っている。
だが、有力者の影響力が衰えれば、たちまち別の有力者の意向の下で、存在の危機がやってくる。有力者の下にいた地頭のような人間(この作品では「大佐」)は、さっさと仕える相手を鞍替えするが、クランの末端はそういう芸当もできず、破滅へ向かっていく。
とはいえ、この一家の主人は相当タフな人間のようで、後日談によれば、獄中で法律家の資格を取り、職業替えに成功したそうだ。
そう聞くと、誘拐という犯罪も、アルゼンチンの一時期においては、それほど珍しくもない、普通のことだったのかもしれない。
コロンビアといい、南米ってそういうところなんだろうか。