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2016.06.19

「帰ってきたヒトラー」

はなはだタイムリーな映画。
内容的にも、WWⅡでの恥ずべき行いを、ヒトラーとその一党に全責任を負わせて、被害者のふりをすることもなく、いたって真面目。

ドイツ人の中にも、現状の移民の流入に対して、もう少し生来のドイツ人を優先的に考えてもいいのではないかという気持ちがあるのを、正しく取り出している。その取り出し手、不満の受け皿ともいえる立場に、WWⅡの末期から転送されてきたヒトラーを配置するアイデアが、極めて秀逸。これは笑うべきか怒るべきか真面目に考えざるを得ない。

そして、とても重要なのが、人間ヒトラーの描き方だ。
ステレオタイプな悪魔のように描いてはいない。

情報収集のために労を惜しまない努力家の一面。人間をよく観察してそれぞれの特質を見抜き、利用(活用)する才能。必要とあれば自分の手を動かすのをためらわない勤勉さ。そして、演説で人を魅了する政治家としての力、無言で他を威圧して従わせる統治者の能力。

そういったものを、丁寧に描いて、ヒトラーの人間力を、説得力を持って訴えてくる。

もちろん、指を噛んだ犬を射殺したり、ユダヤ人と見るや態度を豹変させた、いつのまにかゴロツキを集めて手足のように動かし交錯していたりするエピソードもしっかり挟み込んで、この人物の立体感を出している。

そうして、ヒトラーの存在感を十分感じさせたうえで、クライマックスで、彼の口を借りて、作り手は観客に訴えてくる。
ヒトラーがもたらした差別や排他的な感情は、ドイツ人の普通の人々の一部なのだと。

このとき彼は微笑むのだが、その笑いは、極めて真面目な思いから出たものだ。悪魔的な笑みなら、鼻で笑い返すことができるのだが、そうさせない。この天才政治家の憎むべきところと言うべきか。演出も役者もがんばった。


結局、はっきりとわかるような結末は、この作品にはない。しかし、オープンカーで街を行く彼に、多くの人が示す好意的な素振りを、どう受け止めたものだろうか。

もちろん、激しく反発する人もいるのだが、それは少数なのだ。

さて、Brexit poll は3日後に迫った。欧州はどこへ行くのだろう。

Pic3


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