「黄金のアデーレ 名画の帰還」
クリムトの作品モデルであり、また絵画の持ち主でもあった名家が遺した娘が、過酷な戦争の時代を経て、米国に逃れ、年老いたいま、昔日の栄華と人の尊厳を取り戻すべく、ナチからオーストリア政府に、不法な手段で渡った傑作の返還を求めて、訴訟を起こすお話。実話だそう。
この主人公の老婦人が、名家の裔としての気位の高さと人間味を、同時に持ち合わせていて、話の筋に品格を与えている。金目当てではない、奪われた家族の絆を取り戻すお話として、厚みを出している。
それも、上から目線でないところが、とてもよい。
むしろ、オーストリア政府の官僚的な姿勢に対する憤りが、庶民の共感にもつながる。
期せずしてその味方になるのが、米国の柔軟な法制度と、最高裁判事や弁護士だったりするところが、米国人の優越感を少しくすぐるところもあるかもしれない。
ナチ絡みの話は、結構暗い方に行きがちで、最近は敬遠していたのだが、この作品は、そこはあまり強調せず、むしろ暴力的な人権や財産権の蹂躙を、普遍的なものとして捉えていて、飲み込みやすい。個人的な恨みのような形にしないので、品が良い。