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2015.07.18

「オン・ザ・ハイウェイ」

トム・ハーディ演じる建設現場監督が、ある事情で高速道路を疾走する車のハンドルを握りながら、電話だけで様々な人と会話しつつ、男の社会的責任について演じて見せる、ひとり芝居。一風変わった趣向だが、言わんとするところはよく伝わってくる。

欧州で、核施設を除けば最も大きい建設現場を任されている、ベテランの現場監督。背負っている責任は重大だ。その現場で、大量の基礎コンクリートを打ち込む日を控えた前夜に、このひとり芝居は設定されている。

彼はその現場を抜け出し、極めて個人的な事情から、部下の一人に翌日の仕事を任せ、ひとり高速道路を、ある目的地へ向けて疾走している。

いささか頼りない部下、現場を統括する責任者、クライアント側の代表、工事に必要な道路占有許可を出す警察、その警察に工事認可を送るはずの役所、仕事だけでもこれだけいる。電話には出ないが、腕の確かな信頼できる職人たち、対照的に、いい加減な仕事でトラブルの種をつくる労働者も見える。

そして、今夜の目的地である病院で、まさに出産をはじめた不倫相手の女性、病院の看護師、医師。これが、きわめて個人的事情に関わる人々。

最後に、家で彼の帰りを待つ妻と、まだローティーンの長男。


病院までの86分の道のりと、同じだけの上映時間の中で、これらの人々と、細切れに会話を繋ぎながら、主人公は、男というものの責任の何たるかを、粘り強い会話と交渉を通して、観客に見せ続ける。

仕事を投げ出そうとする部下に、段取りを教え、トラブルに臨機応変に対処する。

出産を控えて不安定な相手は、落ち着かせるようになだめすかし、親族なのかと問い詰める病院関係者には、生まれてくる子の父親であると繰り返しきっぱりと宣言する。

そして家族に対しては、今夜起きている事情を隠さず話し、これから起きることから逃げない姿勢を繰り返し見せる。妻の感情に巻き込まれず、あくまでも冷静に。

時には、もう亡くなった父に対して、直接に、激しい指弾の言葉を浴びせるときもある。責任から逃げた父への強い怒りと、自分はそうなならないという固い決意が見える。

その裏には、父の庇護を受けられなかった母に対する謝罪と悔悟があるだろう。その母の不遇が、不倫相手の寂しい人生と、あるいは重ね合わさっていたのかもしれない。

スクリーンの中の暗く落ち着いた高速道路の風景を見ながら、そんなことをつらつら考えているうちに、車は目的地に近づき、静かに夜は明けて、子どもは無事生まれ、大仕事の準備は整い、長男とは絆を確認できた。ここで、さすがの主人公の目にも涙が浮かぶ。妻は・・何事も完璧とはいかないものだが、それさえ、この男なら乗り越えていくだろう。

不倫から起きた人生の転機という設定にも拘わらず、なんだか、とても誇らしいものを見せてもらった気になれる、良作と呼んでいい一本でした。

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