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2015.05.30

「サンドラの週末」

鬱の治療を終えて、元の職場に復帰しようとした二児の母が、社長のいけずな策略と闘うお話。

というと勇ましいように聞こえるが、そうでもない。むしろ、弱々しい草食系が、肉食系の非情な攻撃に倒れかかりながら、なんとか踏みとどまって、人間性を回復しつつ、一皮むけるお話。非常な危機もあったりするのだが、割と淡々と進むところがよい。

社長が従業員に対して、君達のボーナスかひとりの復職かどちらか選べと迫る設定は、結構えぐい。リアルな世界では、もっと見えない形で実行されるものだと思うけれど、映画では、構図を明確にするために、ストレートにやっている。

実際、いろいろ考えさせられるところがある。その感想は、映画に即して書くのは憚られるのでやめておくけれど。

主人公が、自分に投票してくれるよう訴えて回る相手の、様々な家庭の諸事情が描き分けられていて、それも興味深い。相手にもいろいろな事情あり、自分の行動が、相手の家族関係に波風を立てるのを目の当たりにしながら、それでも訴え続ける。引っ込み思案な草食系が、わずかなタフネスを振り絞って、なんとか歩き続けるのは、やや痛々しくもある。

それで、では徐々にタフな肉食系に変わっていったかというと、そうではないところがこの映画の眼目だ。彼女は、草食系のままで、草食系としての強さを発見する。北アフリカ移民の補助員との関係に、それが端的に表れている。なかなかいい結び方。


マリオン・コティヤールが、アカデミー賞主演女優賞ノミネートにふさわしいリアルな表現をしている。

追いつめられた復職希望者の、元気が出たりしょげ返ったり、憤ったり引き篭もったりする様子、さらには、最大の危機で、平常を装いながらも完全におかしくなっている歩き方など、うまい。

内容の薄い派手なアクション映画に毒されている中で、こういう、淡々としながらも明快なメッセージがある作品に出合うと、清々しい気持ちになる。

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