「博士と彼女のセオリー」
体に障害がある人を、これだけ本物らしく演じられるということが、まず凄い。それだけで一見の価値がある。それに加えて、映画の根底に流れるホーキング博士の人柄に打たれる。
障碍者や余命の少ない人物を描く作品には、ひりひりするような痛みが宿ってしまうことがよくある。ある種の理不尽を描くのだから仕方がない。ところが、この作品には、そのひりひり感があまりない。
描き方が浅いわけでは決してない。葛藤も苦悩も、博士と彼女の表情としぐさに十分表れている。にも拘わらず、この肯定的な感じはいったい何だろう。
それは、彼のウィットと彼女の愛情とに依っているところが大きい。
それを描き出した点に、この映画の感動がある。
周囲の人達の温かさも特筆ものだ。車椅子に乗った口も聞けない主人公が、日常の風景に溶け込んでいるかのように丁寧に扱われているのを見て、高齢化社会の理想を見るような思い。
彼が、いわば「人類の宝」であるという点は割り引いて考えるとしても、こうしたケースに慣れていかなければならない私たちのお手本とも言える。
それもこれも、博士の人懐こく回転の速い頭脳、ウィットを忘れない人柄が大きく作用していることは疑いない。
お手本というには、あまりにも特別な人だというのが、たったひとつのアラ探しといったところか。