「プリデスティネーション」
主な登場人物は、わずか3人。いや、実質的には2人か。
その2人の間で交わされる会話が濃い。
タイムパラドクスものに固有の錯綜した因果の糸が、この作品ではとりわけ複雑だ。
それは、もう一つのあるSF的要素が、織り込まれているから。
それは、この映画の持つ、切なさ、理不尽さ、特異性、つまり味わいの源でもある。
自家中毒を起こしそうな異常に濃い空気が、そこから湯気を立てて昇っている。
だから、これをタイムパラドクスものと片づけてしまうのは、少々抵抗がある。
もっと眩暈のするような、二つのSF要素が分かちがたく融合した、まるで別種のものだろう。
原作は、ハインラインの「輪廻の蛇」だそう。残念ながら未読だが、タイトルはこの映画の大きなヒントだ。
鶏が先か卵が先か。主人公は果たして、輪廻の輪を遂に断ち切って解脱に至るのか。
最後の最後に予定調和を裏切る行動に出る主人公の、動機に括目する。
人というのはそういうものでもある、という理解が、
物語の全行程をフラッシュバックしながら一気に落ちてくる。
最後に見事に締めて終わった・・いや、続いた、と言うべき傑作。
双子の監督といい、サラ・スヌークといい、異能の人たちが揃って成立した感じ。
その中で、イーサン・ホークが、ノーマルな現実世界を思い起こさせてくれるのだが、そもそもイーサン・ホークのようなアクの強そうな俳優が一番普通だということ自体、この作品がどれだけ特異かという証になる。