「はじまりのうた」
原題は"Begin Again"。その題のとおり、インディーズ音楽のアーチスト、プロデューサの挫折と再出発を、男女の絆の再生に重ね合わせて描く。匙加減が絶妙な傑作。
音楽づくりの楽しさ満載。必見の一本。
作中で使われる曲を、音楽制作の撮影シーンと一緒に聞いていると、自由闊達な空気が伝わってくる。加えて、製作の合間に自然に交わされる専門的な意見のやりとりが、雰囲気を盛り上げる。きっと音楽好きにはたまらないのだろう。
これらの映像は、音楽のメイキングビデオのような作りをしているのだが、それを映画の枠の中に嵌め込むというアイデアが素晴らしい。忌憚のない音楽談義も含めて、インディーズの空気感が良く出ている。
生き生きとした協働の中で生まれた、男のプロデューサと女のヴォーカルとの連帯感が、しかし一線を越えずに仲間意識に落ち着くのが、この作品の光るところだ。
そこへ至るまでの、二人それぞれの挫折や苦悩がしっかり描かれたうえで、男女の易きに流れずに、一回り大きくなって、元の鞘に収まっていくのを描いているのが、とてもいい。
深みにはまりそうな寸前に、お互いを想って回避する知恵を見せてくれる。
絶妙な落としどころ。大人のお手本。
この物語の落ち着きには、中年プロデューサの思春期の娘の存在も与って大きい。
公演のベンチで、プロデューサの中年男、その娘、ヴォーカルの若い女の三人が、並んでソフトクリームをなめているシーンが象徴的だ。女は娘の姉のような立場に自然に立っている。好きな男の気を引くにはどうしたらいいのか、妹にするように知恵を授ける。母親が成し得なかった役回り。
このシーンがあるお陰で、プロデューサとヴォーカルの関係が、いわく有り男女のそれではなく、音楽を共有する共犯者の関係に落ち着いている。
うまい。実にうまい。
脚本・演出の巧みさもさりながら、キーラ・ナイトレイ、マーク・ラファロが、子どもの心を失わない大人のお手本をいずれも好演。
そして、背景にはニューヨークの街角風景。
なんて素晴らしい作品なんでしょ!
さらに、この映画には、ちょっとしたおまけというか、後日譚があって、最後ににやりとさせる。
そこは見てのお楽しみだが、こんな調査結果も出ているようでタイムリー。(笑)
http://www.gizmodo.jp/2015/02/post_16521.html
ところで、本作も今年大当たりの一本だが、最大手のシネコンチェーンでは掛かっていない。選択眼に問題があるのだろうか。
大手の面目に賭けて、こういう大人向けの傑作を思い切って押し出してもらいたい。空振りしてもいいじゃない。子供向けアニメで十分儲けているのだから。