「おみおくりの作法」
味わいがあって、静かで、最後がちょっと泣ける、いい映画。
静かであるにもかかわらず、派手な映画にありがちな単調さには無縁で、むしろ、無言のシーンにいろいろな意味を読み取ることもできる。
イギリスのこじんまりした街並みが、親しみがあって、それも楽しみのひとつ。
邦題でずいぶん損をしている。原題の"Still Life"のままがよかった。
キリスト教の世界では、小さな雀でさえ神は気にかけてくださる、ということに、一応なっていたと思うけれど、そのまま信じている人がどれほどいるだろうか。
本作では、気にかけてくれるのが、役所の誠実な民生委員、神様ではなく、同じ人間。気にかけてくれるのは死んだ後、ということになる。
もちろん、気に掛ける必要などないという考えの人も、同じ人間の中にはいて、というかそちらの方が人間社会では生産性が高い有為な人材、という評価軸があって、それを映し出すように、この民生委員も、あっけない終わりを迎えてしまう。
ところが。
というあたりが、少し琴線に触れるところ。
二つの墓のどちらもが、一人の人間が遺した豊かさを感じさせるのがいい。
ひとつは、彼が紡いだ人の繋がり。もうひとつは、彼が見届けた人の集まり。
彼の望んだものと、望みすらしなかったものと、ふたつともが成し遂げられた。
本望というべきだろう。
高齢化・少子化が進む中で、名もない孤独死がますます増えそうな昨今、この映画が観客の共感を得るのは当然という気もする。