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February 2015

2015.02.21

「アメリカン・スナイパー」

戦争について様々な意見を呼びそうな映画。アカデミー賞に選ばれなかったのは、中東情勢への配慮であるとか、単に駄作だからであるとか、意見も分かれているらしい。私的には、覇権国家の辛さが伝わってくるような感じがあった。

監督のスタンスは、自分の主張は入れずに、そのとき米国人が感じていそうなことを描くこと、だそうだが、その点で、これは立派なイーストウッドの作品だと言えそう。

なのだが、個別のシーンを見ると、違和感がいくつかある。

主人公のチームが標的とするテロリストは、ドリルで人の手を切断するという設定だ。その恐怖で、米軍に情報を渡さないように住民を脅すのだ。実際にその残虐な行為が描かれる場面があるのだが、テロリスト役が若いイケメンで、あまり苦労していなさそうな顔なのだ。

どうも滑稽に見えてしまう。あれでは住民への脅しにならない。気がする。

あるいは、主人公が一時帰国して、家で寛ぐ場面では、生まれて間もない赤ん坊を、妻から受け取って抱き上げるシーンがあるのだが、この赤ん坊が明らかに、人形なのだ。
このクラスの作品で、ハリウッドがいつも見せる撮影・編集技術を考えれば、赤ん坊を本物に見せるなど、そう難しくはないはずなのに、誰にでもわかるような杜撰さで、人形であることがばれている。

ひょっとして、わざとやっているのだろうか。
故意だとすれば意図があるだろう。

テロリストのイメージに似合わない育ちの良さそうな若者像。
平穏な暮らしの象徴である赤ん坊が、実は偽りの人形。

イーストウッドの辛辣な目線を感じるのだが、考え過ぎだろうか。
愛国心とか家族愛とかを、戦争遂行の目的に利用して人情劇に仕立て、それを見て感動などしている観客を、冷笑しているかのようだ。現実はもっと複雑に入り組んでいて、簡単には解きほぐせないと。

などと不用意に書きなぐってしまうくらい、不自然なシーンがある、ということだけ書き留めておきたい。

同じイーストウッドなら、グラン・トリノの方がはるかにわかりやすい。

それでも最後は、主人公クリス・カイルの実際の葬儀で、沿道に出て見送る群衆を謹厳に描いて締める。観客を突き放す部分と、心を掴む部分のバランスは悪くない。

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2015.02.15

「チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密」

ジョニー・デップ、しばらく役と作品に恵まれない印象だったが、これは結構いけるかも。相方のグウィネス・パルトロウの魅力で、デップまでよく見える。といったら失礼か。

パルトロウ、アイアンマンの時と同じ、よくできた妻役の感じに加えて、微妙にコミカル。真面目なのにいまにも可笑しくて吹き出しそうな空気を、二人でうまく作っている。もちろん、引き立て役のあと2名のお陰もあるけれど。

でも本当は、ジョニー・デップには、ブラックでシニカルな雰囲気が似合うはず。そういう作品が世の中にうけなくなっているのを、製作側は感じ取っているのだろうか。

しばらくは本性を封印して、これくらいで生き延びてもらいたい。

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「劇場版ムーミン 南の海で楽しいバカンス」

ノンノンことフローレンがブイブイいわせている。それ以外は、日本製のTVアニメと、それほど変わらない。パパが多少活動的だったり、ムーミンがやや賢かったりする。

懐かしいと思って見に行ったのだが、ごく普通に、まったりしている。
背景の淡い色調は水彩のようでもあって、目に優しい。

ボヘミアンという言葉を聞いたのも久しぶり。

全体に、そのまんま日本のムーミンだった。

トーベ・ヤンソンは、日本のムーミンをあまり好きではなかったそうだけれど、
その方面はOKだったのだろうか。

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2015.02.11

「はじまりのうた」

原題は"Begin Again"。その題のとおり、インディーズ音楽のアーチスト、プロデューサの挫折と再出発を、男女の絆の再生に重ね合わせて描く。匙加減が絶妙な傑作。
音楽づくりの楽しさ満載。必見の一本。

作中で使われる曲を、音楽制作の撮影シーンと一緒に聞いていると、自由闊達な空気が伝わってくる。加えて、製作の合間に自然に交わされる専門的な意見のやりとりが、雰囲気を盛り上げる。きっと音楽好きにはたまらないのだろう。

これらの映像は、音楽のメイキングビデオのような作りをしているのだが、それを映画の枠の中に嵌め込むというアイデアが素晴らしい。忌憚のない音楽談義も含めて、インディーズの空気感が良く出ている。

生き生きとした協働の中で生まれた、男のプロデューサと女のヴォーカルとの連帯感が、しかし一線を越えずに仲間意識に落ち着くのが、この作品の光るところだ。

そこへ至るまでの、二人それぞれの挫折や苦悩がしっかり描かれたうえで、男女の易きに流れずに、一回り大きくなって、元の鞘に収まっていくのを描いているのが、とてもいい。

深みにはまりそうな寸前に、お互いを想って回避する知恵を見せてくれる。
絶妙な落としどころ。大人のお手本。

この物語の落ち着きには、中年プロデューサの思春期の娘の存在も与って大きい。

公演のベンチで、プロデューサの中年男、その娘、ヴォーカルの若い女の三人が、並んでソフトクリームをなめているシーンが象徴的だ。女は娘の姉のような立場に自然に立っている。好きな男の気を引くにはどうしたらいいのか、妹にするように知恵を授ける。母親が成し得なかった役回り。

このシーンがあるお陰で、プロデューサとヴォーカルの関係が、いわく有り男女のそれではなく、音楽を共有する共犯者の関係に落ち着いている。

うまい。実にうまい。

脚本・演出の巧みさもさりながら、キーラ・ナイトレイ、マーク・ラファロが、子どもの心を失わない大人のお手本をいずれも好演。

そして、背景にはニューヨークの街角風景。

なんて素晴らしい作品なんでしょ!


さらに、この映画には、ちょっとしたおまけというか、後日譚があって、最後ににやりとさせる。

そこは見てのお楽しみだが、こんな調査結果も出ているようでタイムリー。(笑)
http://www.gizmodo.jp/2015/02/post_16521.html

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ところで、本作も今年大当たりの一本だが、最大手のシネコンチェーンでは掛かっていない。選択眼に問題があるのだろうか。

大手の面目に賭けて、こういう大人向けの傑作を思い切って押し出してもらいたい。空振りしてもいいじゃない。子供向けアニメで十分儲けているのだから。

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2015.02.01

「おみおくりの作法」

味わいがあって、静かで、最後がちょっと泣ける、いい映画。

静かであるにもかかわらず、派手な映画にありがちな単調さには無縁で、むしろ、無言のシーンにいろいろな意味を読み取ることもできる。

イギリスのこじんまりした街並みが、親しみがあって、それも楽しみのひとつ。

邦題でずいぶん損をしている。原題の"Still Life"のままがよかった。


キリスト教の世界では、小さな雀でさえ神は気にかけてくださる、ということに、一応なっていたと思うけれど、そのまま信じている人がどれほどいるだろうか。

本作では、気にかけてくれるのが、役所の誠実な民生委員、神様ではなく、同じ人間。気にかけてくれるのは死んだ後、ということになる。

もちろん、気に掛ける必要などないという考えの人も、同じ人間の中にはいて、というかそちらの方が人間社会では生産性が高い有為な人材、という評価軸があって、それを映し出すように、この民生委員も、あっけない終わりを迎えてしまう。
ところが。

というあたりが、少し琴線に触れるところ。
二つの墓のどちらもが、一人の人間が遺した豊かさを感じさせるのがいい。

ひとつは、彼が紡いだ人の繋がり。もうひとつは、彼が見届けた人の集まり。
彼の望んだものと、望みすらしなかったものと、ふたつともが成し遂げられた。

本望というべきだろう。

高齢化・少子化が進む中で、名もない孤独死がますます増えそうな昨今、この映画が観客の共感を得るのは当然という気もする。

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