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2015.01.31

「エクソダス 神と王」

いわゆる出エジプト記だが、かなり現代風の味付けのスペクタクル。映画としてはたいへん満足のいく出来。特に、繁栄を謳歌するエジプトを次々襲う天変地異の映像は、一見の価値あり。最後に、紅海を渡ったあとの巨大な海の壁にいたっては、「人類史上最大の奇跡」の宣伝に恥じない迫力。

一方、台詞や思考がかなり現代的なので、その当時を思い起こさせる何かを期待していくと、少し裏切られるかもしれない。


アラブ世界とユダヤ教の今日の関係を考えると、いろいろ言われそうな描写もある。

エジプト王が、ヘブライ人を、好戦的で、狡猾で、などいろいろ評するところは、為政者が言いそうな、お決まりの台詞といえばそうだが、思わず笑ってしまう。

作中のモーセが、ゲリラの指揮官のように描かれているところは、伝えられるモーセ像とは少し違う気もする。もっとも、約束の地にたどりつくまでに、いくつも戦闘行為を行って、多民族を追い散らしているそうだから、実際のモーセがそうだったとしても不思議はないが。

今の時代にあっては、ゲリラ戦術を採っているのはむしろアラブ世界の側だから、これは、ある種、皮肉を利かせているのだろうか。とはいえ、当時のエジプトは、アラブでもイスラムでもないから、少し考え過ぎかもしれない。

あるいは、エジプト王が、ヘブライ人の出生率が高く人口が増えすぎる点について嘆いている点など。これは、モーセの出生の秘密に関わる有名なエピソードに連なっているから、歴史書を忠実になぞっているわけだが、一方、今日のイスラエルで、パレスチナ系の人口増加が大きいことに重なったりもする。古今東西の支配側の民族にとって、お悩みの定番かもしれない。北米の白人も同様だろうか。

穿った見方をすれば、そういう皮肉めいた要素がいろいろ埋め込まれていそうでもある。作り手は、歴史は反転して繰り返すとでも言いたいのだろうか。


あれこれ考えて、スペクタルに目を奪われているうちに、あっという間に時間が流れて、最後の枯れ切ったモーセの姿がなかなかいい。他のシーンと並んで、クリスチャン・ベイルの役者としての力量が、如何なく発揮されている。


総体に、観て損はしない、時々観返したくなる大作の一本に入るだろう。

見終わったあとで、公式サイトでキャストを確認してびっくり。ジョン・タトゥーロとかシガニー・ウィーバーとか、全然気づかなかった。

エジプト王朝メイク半端ない。


ところで、最期、あの少年の額に一瞬見えた血の一筋は、何だったのだろうか。
おそらく最後まで、合理主義・実証主義・自力本願を捨てなかった作中のモーセが、約束の地に入るのを許さないという、ユダヤの神の意思の表現?

偉業を成し遂げたにもかかわらず、一抹の寂しさが漂うような、それでいてモーセの達観したような様子が、いい余韻で残りました。そういう人間臭いモーセに、いいね!

そういえば、神様の言葉を刻んだ石版、ぶっ壊しちゃったのもモーセだった。(笑)

Pic08


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