「アバウト・タイム」
劇的なところは何もない。けれども最高にいい映画。
封切と同時に見たのだが、どう書けば、この作品の良さが伝わるだろうと、ずっと感想を書きそびれていた。
これを観て、普通の日常を描いただけじゃないか、どこがいいんだ。と思えたなら、その人はとても幸せな人生を送っている、ということだ。
タイムトラベルという小道具を、この作品では、日常のちょっとしたミスを修正する便利な能力として扱っている。それ以上の使い方はしない。
はじめはその能力を手軽に使っている主人公だが、生涯の伴侶との巡り合いでは、タイムトラベルをしたことが裏目に出て、普通の人と同じように七転八倒しながら軌道修正していく。もっと思慮深くあれ、という戒めになっている。
なるほど、ちょっとの修正が効く分だけ、本物の日常よりは、映画の方が少しだけ輝いて見えるかもしれない。
けれども、そうしたミスは、本物の日常でも、工夫次第で挽回可能だ。
一時的なミスではない、長い積み重ねの結果として現れる悲劇や苦境には、普通の人と同じように直面し、同じような喜怒哀楽がある。
だから、この映画には、ほどよいリアリティがある。
それが、この映画の良さを支えている。
夢物語の幸せではなく、ちょっとした日常の気遣いの積み重ねで得られる、最高の幸せ。
それが描けている。
観ている途中から、そして観終わった後にも、じんわりとくる作品。
派手な言葉は似つかわしくないが、傑作と言いたい。
リチャード・カーティス監督は、本作が映画監督としては最後の仕事になると伝えられている。
ちょっと残念だが、最高の作品を最後に残してくれた、と思っておこう。
[追記]
監督のメッセージがFBに載っていた。こちら。