「ノア 約束の舟」
文句なく傑作。特に後半が。
ノアの箱舟伝説をただ映像化したのではきっと退屈だろうなと、あまり期待もせず、ただ豪華俳優陣に釣られて観に行ったら、見事に良い方に裏切られた。
もちろんこのお話を、驚くべき「真実」などと言ったら、聖典の民から総スカンを食うのは致し方ない。方舟伝説として伝えられるものとは、”少々”筋書が違うからだ。
千年単位の時間を超えて語り伝えられる物語は、シンプルである必要があるから、本物の聖典が、心の葛藤を端折るのは仕方がないのだろうけれど、それではお話としてはつまらない。
その味気ない空隙を、この作品は、前半はファンタジーで、後半は骨太な人間ドラマで、それぞれ満たした上に、一段の高みに昇華している。それも、巧みな人物描写と、名優の演技と、最小限に磨き上げた台詞とで。もちろん一大スペクタクルが背景だ。
これを傑作と言わずしてなんとする。
そういうわけで、今年前半の自分的ベストにほぼ決まりです。
エマ・ワトソンもローガン・ラーマンも、いい作品と一緒に成長していくのを見られるのが嬉しい。この二人は、「ウォールフラワー」でも一緒だった。
主人公ノアを演じたラッセル・クロウ。プロローグの後の、出だしの優しげな表情が最高。そこから後半山場のナイフを握りしめた悪鬼の貌まで、大車輪の活躍でした。応じるジェニファー・コネリーも一緒に。
アンソニー・ホプキンス。愛され頼られる年寄りというものは、皮肉屋で剽軽で、そして裏がある(笑)、というお手本。よい薬味でした。
思いのほかよかったのが、カインの裔を演じたレイ・ウィンストン。悪を行うのは人の定め。それがなぜ悪いという自信に満ちた開き直りが彼の役回りだが、悪辣さを適度に抑えて、”どうして悪いのか”という純粋で率直な問いかけを体現していた。ここは、自らの悪に向き合って憔悴するノアと対照する、たいへん重要な点だが、そこを非常にうまく伝えていた。
彼の振る舞いが、最後に最高の決め台詞を言うエマ・ワトソンのシーンを、草葉の陰から(笑)強力にバックアップ。上出来な悪役ぶりでした。
いやー、いい映画観たわ。
因みにこの作品は、イスラム圏では上映禁止、キリスト教圏でも批判的な意見があるそうです。(例えばこちら「新作映画『ノア 約束の舟』に米創造論者が否定的コメント「聖書から逸脱している」「益よりも害」」など。)
公開直前まで、都心の上映館がWebに掲載されなかったことと、何か関係があるのかはわかりません。
私は宗教的な制約から一応自由なので、大いに楽しめましたが、気になる方には無理にはお薦めしません。
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