「あなたを抱きしめる日まで」
”地の塩”のお話。それも、無垢や無知ではなく、息子の消息を知りたい一心で様々な情報を得た後に、それでも、揺るぎなく地の塩である人を描いた良作。見逃さなくてよかった。
カソリック教会の欺瞞を暴くお話という受け止め方も、あるいはあるかもしれない。実際、あれだけ大きな組織になれば、中には不心得者もいるだろう。
けれども、お話の本筋は、主人公の個人的な体験を通して、キリスト教の本質を示すところにある。
赦すことは苦痛を伴う、ということを、主人公ははっきり口にしていてわかりやすい。なにかユートピア的なぼんやりした観念とは違う。殉教者のエピソードで脚色されるような、宗教的な情熱に燃えてというのとも違う。
普通に人として怒っており、その痛みを感じていて、それでも赦すということなのだ。
迷いはあっただろう。告解したいと言って入った教会で、何も言わずに出てきてしまったときが、そうだ。教会に対する不信感、信仰が揺らぐことへの畏れ。このときしかし、主人公は、形式を捨てて、真理に一歩近づいた。それが最後の感動的な台詞につながっていく。
主人公が、選ばれた者などではなく、むしろ、品がなく凡庸で、世間知らずで、おまけにTVに毒されている、つまり普通の卑俗な現代人であることを、そこかしこで描写する伏線が、よく効いている。それはこの映画に、普遍性と親しみやすさを持たせることにも大いに役立っている。
最後に、やはりこの件を、伏せておかずに記事にしようという判断もしっくりくる。より多くの人に知ってもらうために、あえてプライベートを晒すということが、抵抗なく思えるのが現代というものだ。
少し惜しかったのは、ジュディ・デンチはどう演技してみせても、凡庸で卑俗なおばさんにはまるで見えなかったこと。台詞は十分俗っぽいのだが。もう少し dull な感じを出せたら、コントラストは更に強まっただろう。それは贅沢というものだけれど。