« 雑記140428 | Main | 「神聖ローマ、運命の日 オスマン帝国の進撃」 »

2014.04.29

「8月の家族たち」

原作は戯曲の傑作ということもあって、演劇的な緊張に満ちた良作。離れ離れに暮らす母と成人した3人の娘たちが、父の失踪でいっとき生家に集まり、生きづらい日常のストレスと、互いへの不満とを、思い出したように容赦なくぶつけあった後、一人、また一人、傷を負って舞台を去り、自分の日常へと戻っていく。

娘たちの短い滞在の間に、何が変わっただろうか。何も変わりはしない。いや、むしろ末娘まで離れていった分、母の老いの孤独は深まった。

親しき中に礼儀など無用と言わんばかりの母の攻撃性を、無意識に受け継ぎ、あるいは否応なく影響を受けている娘たちの様を見て、これを果たして母娘の絆の深さと言っていいものだろうか。ましてや愛情などと。だが、そういうものなのだろう。

自分というものが、自分の意思だけでかたちづくられているわけではないことを、この作品は教えてくれる。それを好むと好まざるとに関わらず。

同時に、世代の違いも描き出す。今より過酷な生を生きてきた世代と、そうではない世代の、優しさと厳しさの配分の違いを。


それ故に、娘たちは母から離れていかざるを得ないのだ。自分を正確に写しだす鏡などと一緒に暮らして、優しい世代が耐えていけるはずがない。男たち、夫や父や息子たちは、ここでは、その代わりにあるようなものだ。


母とその長女が、ともに同じように孤独な強がりの生き方に還っていくのを描いて、作品は終わる。その前に退場した次女や三女の不幸も目に見えているようだ。

それを思えば、なるほど劇中の台詞にあるように、最後まで連れ添った母夫婦は、娘たちよりも尊敬に値するのかもしれない。


メリルストリープについて、いまさら何か言う必要もない。彼女が吼えると、劇場全体が凍り付く。素晴らしい存在感で、またも映画の魅力をみせてくれました。

Pic02

Pic01

|

« 雑記140428 | Main | 「神聖ローマ、運命の日 オスマン帝国の進撃」 »

映画・テレビ」カテゴリの記事