「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」
「親孝行 したいときには 親はなし」の一句を思い出させるハートウォーミングな良作。白黒というのもいい。以下ネタバレ。
親のことを、子は案外知らないものだ。親が若い時のこと、ましてや親が子供だったときのことなど、ほとんど知らないといってもいい。時々、色焼けしたアルバムなど引っ張り出して眺めていても、子は見向きもしないのが、まあ普通だろうか。
この映画に登場するのも、そうしたありふれた親子。子供はすでに若いとはいえない歳で、暮らしはぱっとせず、親はホームに入れるかどうかといった老齢だ。
それが、宝くじがきっかけで、親の生まれ育った故郷近くの街まで、数日の旅に、親子二人で出かけることになる。子はそこで、親の古い知り合いたちから、いろいろな断片を聞き、自分の冴えない親が、それでも若い時にはいろいろあったことを知る。ありふれてはいても、今の自分よりは冒険的だったり、時代の大きな流れに翻弄されたり、あるいは、人のいい、利用されやすい面は昔からだったりしたことなどを。
故郷を離れて暮らしていれば知り得ない諸々に触れて、単に「親」というだけであったものを、「人」として見直すようになる。
故郷の田舎町の人々の描写がいい。当選金のおこぼれにあずかろうと、昔の恩を有ること無いこと話し出す者、何の関わりかわからないが挨拶しにくる者、夜陰に紛れて当選券の強奪に及ぶ者。
かと思うと、宝くじの話に左右されず、自分達らしい振る舞いを崩さない者、旧交を懐かしみ素直に祝福する者、あるいは、別の形の幸せを見せて虚勢を張る者。様々だ。
宝くじに当たったという誤解で、故郷の昔馴染み達から一躍有名人に祭り上げられ、少し居心地のいい老親だが、その勘違いが露見して、あざ笑われ、それでも黙って引き下がるしかない姿を、子は黙って見ていられるかどうか。そのあたりが、この映画の、淡々として味わい深い中で、ちょっとアツくなるところ。
どんな形で親孝行するのか、劇場でじっくり見たい。
その後、帰宅の途で町の大通りをゆっくり通り過ぎていくときの、町の人々の反応や表情が、締めの見どころ。
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