「LIFE」
なるほど、そういう映画だったのか。これは宣伝が難しいけれど、観てみると、なかなかいい作品。
今後20年間で米国人の仕事の約半分がコンピュータに置き換わるだろう、という類のことが、人々の口に上るようになってきた。あるいは国内でも、このところの建設ブームを受けた技能職の工賃高騰を受けて、省力化・自動化工法が大幅に取り入れられ始めている。要するに、社会は人間をこれまでほどたくさん必要としない方向に向かっているかのようだ。
そういう具合に、これまで所謂中産階級と呼ばれてきた、先進国でマスとして一番大きな部分の人々の安定した生活は、今後はかなり不透明にならざるを得ない時代になった。以前であれば、その浮いた時間を、もっと新しい仕事に振り向ければよいという楽天的な考えが真実味をもって語られたけれど、それもかなり怪しくなっている。仮に、新しい仕事なるものが彼らの大部分に行きわたるくらい十分な量を伴って創造されたとしても、それは次の世代の人々のものだろう。いま現在の中間層は、それに適した教育や訓練を受けていないし、今後も受けることがないだろうから。
おそらくそういう前提のもとに、この映画は、「これはすべての人のための物語だ」と言っているのだろう。複雑な心境にならざるを得ない。
作品自体は、味があってわるくない出来。
目立たなくても、都市の中で、堅実に地味にものごとを支える仕事があり、情報化や機械化によって、それが否応なく終焉を迎える状況があり。
一方、時には統制の強いデスクワークを離れて現場へ行くことの必要があり、そこで出会う困難と挑戦、偶然性、未来の不確実性、開放感、要するに前向きで屈託のない、人がましい生き方があり。
それらが、しょぼくれた引っ込み思案な一人の男を通して描かれる。
(追記:少年時代は、割とはっちゃけた人生を夢見ていたはずなのに、父親の突然の不幸から、夢をあきらめて生活苦の中で生きてきた男。その点を掴まえ損なったので、おかしな感想文になってしまった。)
一世一代の冒険行の果てに彼は、自分にしては思い切った行動が、無駄な遠回りに過ぎなかったことを知る。
その同じ瞬間に、その道のベテランが、一番自分の好きな瞬間を、機械や電子機器に邪魔されず、換金できる成果物に収めることもせずに、ただ生身のままで静かに味わう姿を目撃する。
そこで、主人公は何か悟るところがあったのかもしれない。そこを具体的に描かずに、人間関係の微妙な変化や新しいつながりのような形で匂わすにとどめているのが、この作品の味わいだ。
さて、それで結局、彼は新しい時代に適応して、仕事を見つけられたのかというと、必ずしもはっきりしないところが、複雑な心境の由縁だ。もちろん、映画は希望を持たせた形で終わってはいる。現実には、それが実を結ぶのかどうか、悩ましい。
いろいろ考えてしまう内容を持ちながらも、基調の明るさに救われている一本。
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