「31年目の夫婦げんか」
たった3人だが、名優が揃って出来上がった、ハートウォーミングな映画。というと宣伝文句のようで芸がないが、まさしくそのとおりの良作。以下ネタバレ。
結婚生活31年のこの夫婦の、なんと純情で善良なことよ。ほとんど考えられないくらい。「カールじいさんの空飛ぶ家」の若奥様が生きていれば、こんな感じの夫婦になるかもしれないというような。
そんなよくできた夫婦にも、長い倦怠期があり、奥様の方が耐えかねて、勇を奮って長期滞在型のカウンセリングに申込み、いやがる亭主を引っ張っていくのがお話のはじまり。
このカウンセリングというかセラピーというか、そういうものに対する感覚が、普通の日本人である私には少し違和感があるのだが、米国では普通のことなのだろうか。カウンセラーを間に挟んだ、夫婦のそれぞれの素直さに目を瞠る。特に旦那の方が、嫌がっている割にはずいぶんフランクに、いろいろなことを話す姿には驚かされる。
カウンセラーとの会話、出される課題、滞在している町の気の置けなさ、そうした諸々が、十年一日のようだった夫婦の固く乾いた生活に変化をもたらしていく。それを見るのがこの映画の楽しみ方だろう。いまさら照れくさくて言えない、できない諸々を、カウンセラーという第三者から厳かに出題される課題をクリアする、という形を借りて乗り越えていく。そのプロセスが、泣き笑いで味わい深い。
コミュニケーションの恢復は比較的順調にクリアしたものの、老年の性に関わる課題は難渋する。ここは人それぞれ微妙なことでもあり、実際にはいろいろあるのだろう、くらいにしか言えないところだ。そこは映画なので、ひと山あるものの最後はハッピーエンド。こんな旦那、奥様を、お手本にしたいものです。
奥様役のメリルストリープ。設定では50~60くらいの小太りのご婦人だが、そこに可愛らしさを滲ませるという離れ業をやってのけている。すごい。
旦那の方のトミー・リー・ジョーンズ。保守的だが権威的ではなく、沽券を気にする中年男の裏側には、奥様一途の純情が隠れているという、これもかなりの離れ業。二人ともすごい。
そして、二人の間を取り持つ、カウンセラー役のスティーブ・カレル。詐欺師と名医のきわどい境界線を、表情だけで演じて見せている、これもすごい。役者がすごいのか、はまり役を見つけてくる目利きがすごいのか。どんぴしゃりの配役。調べるまで気づかなかったが、「エンド・オブ・ザ・ワールド」の主演男優さんでした。目立たないけれど無くてはならない役者さん。
背景になる小さな町の佇まいと、住人の温かさも、たいへんよい。本当にちょっとしたシーンが挿入されているだけなのだが、世間をあまり知らない奥様に、人の世の温かさを伝えて励ましてくれる。
夏のSF大作の切った張ったを見たあとは、こういうヒューマンな映画で心洗われてみるのもよろしいですね。
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