おら 東京さいぐだ!
23区内へ引っ越した。
といっても、多摩川を渡って少し北へ行っただけだから、さほど大袈裟なことでもないのだが、一応顛末を簡単に記録しておこうと思う。ちなみに、年が明けてから映画の感想文をほとんど書いていないのは、物件探しと引越しで週末忙しかったから、なのです。以下だらだら長文。
* * *
昨年大晦日までは、引越しなど露ほども思っていなかった。元旦に金時山に登って富士山を見たのが、何か影響しているのかどうか。三が日にふとしたことでリクルートがやっているスーモとかいうサイトを見たのがきっかけだ。
中古マンションて結構安いのもあるのね、というのが実感だった。特段の荷物も趣味も持たず、夜寝に帰ってくるだけの一人暮らしには必要十分な広さのものが、最も安いもので500万円くらいである。場所も悪くない。もちろん、そういうものは半端なく古いとか、何らか曰くがある物件ではあるのだが。
そうした曰く因縁をあまり気にしないので、これは暇つぶしにちと探してみようかということで、三が日は蜜柑と白ワインで過ごしながらネットと睨めっこしていた。
概ね1000万円前後で、そこそこの物件は手に入るようだ。今住んでいる木賃アパートの家賃のほぼ15年分にあたる。と思うと、やっぱり割高な気もしてくる。新聞などで見かける京都あたりの投資用ワンルームなどは、同様のスペックでこの6割くらい。東京はやっぱり住むための費用が割高だ。
だいたい、私は日当たりのよい木賃アパート押入れ一間畳敷きというものが好きで、コンクリート壁の住まいは一度懲りたことがあるのだ。断熱工事をしていない薄いコンクリート壁だけで、外はリシン吹き付け内はクロス直貼りなどという空間は、正直辛い。外も内も打ち放しなどがデザイナー系には受けがいいようだが、実際に住んでみれば、冷輻射やら結露やらいろいろ障りがあるのがすぐにわかる。その前に住んでいた吉祥寺の四畳半木賃アパートが、また素晴らしく良い環境だったので、余計にあの石の底冷え感は堪えた。桜新町は町としてはとてもいいところだったので、もう少し良い物件を探せばよかったのだが。
さて、にも関わらず、そこで物件探しを止めなかったのには、それなりに理由もある。第一には、今の環境に馴れ過ぎたと感じるようになったこと。川崎という町は、ラゾーナが出来てからは特に、普段着の住みやすさという点で著しく良くなった。週末に買い物に出れば、少子高齢化などどこの話かと思うくらいに、赤ちゃん連れの家族で溢れている。羽田にも近く、いずれアジアの台頭する若い力が流れ込んできて、さらに発展を遂げるかもしれない。品川とは別の切り口で、日本の玄関口になる可能性もある。そういう「暮らしやすい」点に、しかし私は少しすれ違いを覚えるようになったのだ。へそ曲がりだから仕方がない。(笑)
第二には、賃貸は若者のもの、という意識がある。だんだん歳を取っていくに従って、貸してくれるところも減ってくる現実がある。手数料商売の不動産屋にしてみれば、回転が速い若い借り手の方がいいのだ。大家の意向は別だとしても。そうした環境下で、いつまでも賃貸に居続けるのは、少々リスクがある気がする。
第三は、これは素人の思い過ごしに近いのだが、世の中のデフレの潮目が変わりそうなのではないか、という気がしたからだ。まあ、たとえ一時の気の迷いだとしても、そう損をするわけでもない。
そんなこんなで思い込んだらもう止まらない(笑)。資料請求に厚かましく内覧希望のチェックを付けて正月3日の夜に十数件一気に送信。翌日から、携帯にひっきりなしの着信が。次々に内覧予定を決めて、週末がどんどん埋まっていく。行ったことのない町へ行く予定を入れるのは、映画のチケットを買うのと同じくらいわくわくすることだ。
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高校まで横浜で過ごした私には、東京の南半分は比較的親近感がある。学生の頃は自転車でかなりあちこち走り回ったので、土地勘もある。というわけで、その辺りを中心に回ってみる。私鉄沿線は、仕事場との時間距離や乗り換えの不便を考えてパス。勢い、山手線の駅かその内側の地下鉄駅近辺ということになる。
不動産屋からの反応では、田町周辺の物件が多いようだ。品川と田町の間のJR新駅の計画も発表されたし、今ホットなのだろうか。旧財閥系M社の若い担当者が結構親身になってくれて、世間話などしながらあれこれ物色。彼は企画部署出身とかで、町の不動産屋とは話のレベルがちょっと違っていて面白かった。
東京湾岸の物件は、昨年の大地震でいっとき価格が下がったらしい。目端の効く資産家はすかさず買いをいれていて、一年後の今はかなり値を戻しているとか。6千万で買ったものが1年で8千万くらいになっているそうな。英語圏から来た借り手もこの辺りは多いようで、そういう人達と不動産契約取引をするときは、帰国子女の通訳付きでも結構たいへんだとか。外国人はおろか、同じ国内の関西人にさえ通じない”礼金”なんて、どう説明しているのだか(笑)。かと思うと、売り手買い手双方とも士業で、時間調整がおそろしくたいへんという話もあった。しかもそれぞれ仕事では先生と呼ばれるくらいでプライドは高いわ我儘だわで、間に立つのはたいへんだ。まあ、それが仲介業というものだから仕方がないw。
東京には、地下鉄網の隙間にちょっとした陸の孤島的な空間が稀にあって、そういうところは比較的安い。大規模ビルにもなっていないので、隣の小公園にブルーシートの人たちが住みついていたりする。メディアによく載るようなビジネスビル街やお洒落な界隈、あるいは野卑なパワー溢れる繁華街などとは全く異なる貌も、随所にあるのが東京の面白いところ。
あれこれ見て結局、芝浦の古びたマンションにほぼ決めた。向かいに超大型の超高層マンションができたばかりで、その庭が丁度借景になっていい塩梅だったのだ。平面が三角形のその超高層は、中が上から下まで吹き抜けで、新宿住友ビルのようになっているらしい。住友ビルの方は、吹き抜けを囲む廊下は羽目殺しのガラスだったと思うが、目の前のマンションは、なんと、手すりのみだとか。高所恐怖症の人はちょっと怖いかもしれない。一度中に入って見てみたいものだ。ていうか、パラグライダー背負ってダイブできるんじゃないか。
さて。あとはバイク置き場の目途を付ければ契約、ということで、管理組合との交渉を不動産屋に任せて、ついでに少し地域を広げて見て廻ってみる。
* * *
品川区は特に港南を中心に発展しつつあるところ。新築はいくつもありそうだが、中古が案外見つからない。大崎に手頃そうな物件があったのだが、裏手に回ると大規模な擁壁があり湿気がすごそう。なにしろ擁壁と建物がSRC梁で一体化されていて、間の空間を駐輪場にしているという、あまり見かけない凄まじさ。騒音もないのに二重窓になっていて、理由が解らなかったのだが、たぶん結露がすごいのだろう。
文京区は落ち着いた住宅街の印象がある。目白台の物件は閑静でよい環境だが、今回の引越しの方向性と少し違うのでパス。椿山荘近くのプランが優れている物件は、寺町の中にあり、向かいが小さな墓だ。墓にそれほど抵抗はないのだが、バイク置き場がないのと、なぜか底冷えがするのでパス。
新宿区は喧騒の繁華街の印象。新宿御苑に程近い物件は、入居者が物騒。なにしろ不動産屋自身が、「自分で可能な限り見て廻ったが○暴の人などの入居者は居ないようです」などと、「聞かれもしないのに」開口一番言うようなところだ。それって確実に居るだろう(笑)。電気温水器が故障中で交換費用が追加で必要ということだが、それでも安くて広い。つまり、これも曰くありということだ。
同じ新宿区でも、曙橋近辺は割と住みやすそうなのがあったのだが、これもバイク置き場なし。東京ではバイクは迫害されているのかな。車に比べたら全然場所もとらないし環境に優しい燃費なのに。市谷のお堀沿いの物件は眺めも良くてたいへん気に入ったのだが断念。まだバイクは手放せないということを、このとき初めて自覚。
目を転じて茅場町あたりも、以前の仕事場があったので馴染みがある。のだが、住むとなるとやや建物が稠密で単調過ぎる感じはある。向かいのビルとの距離が近い。大通り沿いでよさそうなのがあったと思うと、売りに出ているものは反対側の狭い通りに面していたり。なかなか条件に合うものは見つからない。中古探しだから仕方がないのだが。
この頃になると、GoogleStreetViewであらかじめビルや周辺の様子を確認して、大凡の見当がつくようになってくる。不動産屋のフライヤーで平面図を見ると二面開口で明るい物件に見えても、StreetViewで見ると一面は隣のビルの壁で塞がれているようなのとか、行くまでもなくわかったり。やっぱり便利だなStreetView。
月島も豊洲と東京に挟まれて最近発展しているようで、捨てがたいところがあったのだが、山手線から離れ過ぎているのが難。有楽町線一本依存なのがつらい。同じ有楽町線でも新富町辺りまで来ると、銀座や日本橋は徒歩圏内で悪くない。正面に聖路加タワーが見える物件があって、これは最後まで候補に残った。
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そうこうしているうちに、田町の物件の連絡がきた。バイク置き場はNGとのこと。なんでも耐震改修の計画があって二輪置き場は縮小の方向だとか。残念。
なんとなく諦めが付かず、もう少し北へ移動したところにある、別の物件に目移り。当初は対象外だったのだが、物件を多数あたるうちに、自分がどいうものが欲しいのか掴めてきて、視界に入ってきた。
海に近い環境で育ったので、やはり内陸よりこういうところが好きなのだろうか。最終的にここにするのだが、まだ紆余曲折がある。
最初はある中堅不動産屋の紹介で、6階を内覧。帰りがけに管理人にいろいろ話を聞くと、ほかにも空いている住戸があるという。それを扱っている別の不動産屋G社に電話して2階内覧のセッティング。こちらは端部住戸なので少し広め。悪くないのだが、管理人に聞いた空き住戸は8階か9階のはずだが、G社の扱い物件の中にはないという。その日はそれで別れたが、数日経って、どう手を回したのか、8階の話を持ってきた。
どうやら、不動産物件というものは、ネットなどには流れないものも多いらしい。ネット物件は餌であって、かかった客を見定めて、手持ちの非公開物件を提示するようだ。そういえば、過去の引越し先探しではいつも、はじめから地元不動産屋廻りばかりしていたので、そういう二重構造に気がつかなかった。
この物件は気に入ったので条件を詰めて、不動産屋の事務所で契約書に印鑑を押す約束までいく。
契約当日、重要事項説明を受けて、またまた不動産仲介業界の奥行きを知ることになる。登記簿謄本を見ると、売主と所有者が違っている。よく聞くと、売主は所有者から登記をする権利だけ買って転売をするらしい。売主が自身で登記をしない理由は節税だ。登録税を節約しているのだとか。だから、この状態でもし買主である私が所有者に働きかけて直接売買契約を行い、そのまま登記してしまえば、売主は対抗できない。そういうリスクを負いながらの鞘抜き商売であるようだ。おそらく業界の慣行として、買主はそういうことはしないのだろうし、所有者と売主との間でも話はついているのだろう。鞘を抜かれているのは癪だが、黙って通すことにする。
この鞘抜きの売主は、不動産仲介業者ではない。おそらく資格も持っていないのだろう。しかし、物件の情報は握っている。不動産の仲介手数料は法律で上限が決められているから、不動産流通で手数料以上に儲けようと思ったら、いろいろ抜け道を工夫しなければならない。これもそのひとつなのだろう。
こうした業者の存在で、不動産価格は不当に押し上げられている、と言うこともできるが、逆に、相場が維持されていると言うこともできるのかもしれない。オフィスや商業施設と違って住宅は、収益還元法だけで一概に価格が決まるものでもないだろうから、ここは難しいところだ。自分が手放すときに、それまで受益した効用や払った経費を購入価格から加減した金額以上で売れればいい、というだけのことかもしれない。
これで購入は終了。水回りを改装すれば、さらに広く使えるようにもできるのだが、費用もかかる。今はこのままで住みこなすことにする。
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引越しはこの2週間後。移転につきものの慌ただしさの中で週末を過ごす。赤帽で荷物を運んで、次の週に戻ってきて掃除。オフィスなら原状回復は業者任せだが、自分の住まいとなるときちんとしなければ。細かいところまでそれなりに綺麗になった。8年間世話になったね。ありがとう。
不動産屋に鍵を返して、これで本当にお別れ。
新居の登記もこの頃完了。
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んで、住み始めて最初の感想は、意外に暖かい。と、買い物不便。
暖かいのは内覧時やその後の雪の日などに確認していたが、思った以上に快適。端部で外に面した壁の断熱工事がしっかりしているのだろう。上下横の部屋が埋まっているのも効いている。
買い物不便は、最初から覚悟の上だ。そもそも便利すぎる環境がよろしくないと思ったから引っ越したわけだから。マルエツ・プチという食品スーパーがこの辺りでは主流のようだが、以前の大消費地の巨大スーパーとは比べるべくもない。価格も3~5割程度高い。落ち着いたらバイクで行ける買い出し先を探さなければ。
映画館だが・・有楽町とお台場ということになるか。渋谷まで出掛ければ無問題だが。。これも追々しっくりくるフォーメーションを考えなければ。
高速道路が近いので窓は二重になっているのだが、これは案外効果がある。ひっきりなしの交通量だが、ちょうど外房の海沿いでキャンプしているような、波の砕ける音にそっくりの低音がずっと続く。かえって快適というか、早くも慣れて気にならなくなった。
総じて、いまのところは満足至極。繁華街の喧騒とは離れて、かといって閑静な住宅地のような他人の眼もなく、海沿いのやや寂れた感じがよい。当分は居着きそう。
そうそう、地震が少々気になるところだが、自分の生死についていえば、どこに居ても似たようなものだろうと思う。そういうことは天に任せておけばよい。海外に拠点を移すような芸当ができるわけでもない。
生き延びてしまったときには、確かに賃貸の方が失うものは少ないだろう。だからこれはリスクを取るということでもある。それに見合うものを今はなんとなく感じている。十年もすれば、またここを売ってどこかへ移ろうと思うかもしれないが、それはまだ先のお話。
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