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December 2011

2011.12.29

「永遠の僕たち」

原題の"Restless" は、少々意味がとりづらい。かといって邦題はあまりに陳腐。しかし幸いなことに、タイトルに関わりなく、静かに暖かいピュアな映画。以下ネタバレ。

余命もの、と私が勝手に命名したジャンルの中で、湿っぽくなく見苦しくもなく、純粋さを感じさせる。主人公がローティーンからハイティーンになりかけという危うく不安定な年頃ということもあるだろうし、季節も舞台も冬の空のように澄んだ空気の下ということもあるだろう。画面のタッチは淡く、聞こえてくる声はゆっくりで少し乾いている。作り手はもちろんよく心得ている。

余命ものの主要素たる2つ、死と愛とが、ここでは程よく化学反応を起こして暖かさを生んでいる。そうなる理由は、主人公二人のうち、余命が限られた1人だけでなく、寄り沿うもう1人の方も死に囚われている設定にありそうだ。一方が生々しい生を感じさせる存在では、二人の亀裂が大きすぎて、こんな穏やかな空気は生まれない。

お話の出だしで、地面に寝転がった少年が、自分を事故の死亡者に見立てて輪郭をチョークでなぞるシーン。あるいは、他人の葬式巡りという奇矯な行動。さらには臨死体験を境に交流が始まった神風特攻隊青年の幽霊。それらはすべて、彼イーノックの、死に対する近さを物語っている。そんな背景を持つからこそ、不治の病で余命3カ月の少女アナベルとは、波長があう。

そんな彼でさえ、献体を決意したと言いだす少女には、少しの抵抗を感じる。死が見えている者が最も望むことは、自身の死後も、どんな形であれ、生者の記憶に残り続けることだが、まだ自身の死は見えていない少年には、そこに抵抗が、まだある。ところどころで描かれる二人の間の小さな諍いは、そんな避け得ないズレを示しているかのようだ。少年はまだ、少女の死を受け容れられていない。それどころか、両親の死でさえ、まだ。

少しづつ段階を踏んで、死に近づいていく少女の中に、安らぎを感じ取ったとき、その安らぎが自分と過ごした時間のおかげであると悟ったとき、たぶん少年は、本当に、彼女の死を受け容れられたのだろう。

彼に影のように付いていた特攻隊青年の幽霊が、少女の道案内として付いていくと言ったことで、彼はそれを感じ取ったはずだ。短い臨死体験から、死後には無があるだけだという思いに囚われていた少年は、この幽霊と少女のおかげで、その思い込みから解放されただろう。restlessだったそれまでの彼の生は、そこで初めてrestfulに変わる。

それゆえ、少女の葬儀の場で、彼は二人が過ごしたたくさんの時間を思い起こして、ほほ笑むことができた。彼の安らかな表情がたいへんよい。


といった小難しいことは、後から思い巡らせた結果だが、普通に流れに任せて浸っているだけで、素直に暖かい気持ちになれる良作でした。

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2011.12.27

「宇宙人ポール」

先週、封切と同時に見に行ってみたら、中くらいのスクリーンがほぼ満員になっていた。映画オタクのためのうんちく満載映画と言えば言い過ぎなのだろうか。きっと過去の様々なエイリアン作品の有名な部分を引用してつくられているに違いない。違いないというのは、私は過去作品の知識がなく、普通の娯楽として見ているので、わからないからだ。さすがに、最後の黒幕登場のところはわかったけど。

うんちくを差し引いてみれば、飛びぬけて面白いということはない。が、デッサンがくずれているわけでもなく、バランスよく仕上がっている。屈託なく笑って年末の気苦労を忘れるには、ちょうどよさそうな作品。

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2011.12.23

「ニューイヤーズ・イブ」

オールスターキャストで贈る年末のハートウォーミング・ミニストーリー福袋、という具合の何か。オムニバスというのかな。「ニューヨーク,アイ ラブ ユー」に、大晦日のカウントダウンを絡ませて、より感動的に仕上げたといった趣。特別な季節を過ごすカップル向け。あるいは、映画スター大集合紅白銀幕合戦という具合の何かでもある。こちらを見るならカップルでなくてもOK。以下ネタばれというほどのものはないが、悪くない一本。

どうも歌が妙にうまい出演者がいるなと思ったら、ボン・ジョヴィという有名な人だったらしい。いい声だなあ。相方役のキャサリン・ハイグルさんといい感じ。それからロバート・デ・ニーロがいますよ。死にかけ老人を下手くそに演じる彼の相方が看護婦役のハル・ベリー。この組み合わせなかなかいい。それにしても、デ・ニーロ下手だな。全然死にそうに見えない。w

それからそれからミシェル・ファイファー演じるちょっとイタいけどキュートな中年女性とザック・エフロンの若々しさの取り合わせが、高齢化の波に洗われる観客の心をわし掴み(笑)。

それで、サラ・ジェシカ・パーカーは今回、子持ちのやもめで、15歳の娘から過干渉で嫌われる役。アビゲイル・プレスリンちゃんの幼い恋路を邪魔して罵声を浴びせられるのであります。SATCで眉をひそめた良識ある家庭人は、これで溜飲を下げるであろう。と思いきや、最後の最後に大逆転玉の輿。くやしい、ひたすらくやしいです。だいたい最後のそのシーンで何その登場の仕方は。あり得ない。サラの高笑いが聞こえるようです。

という具合に、大晦日的どたばたの中で、「ミリオンダラー・ベイビー」のヒラリー・スワンクが、今年を締めくくる名演説を、お話の流れの中で、見事にぶってくれます。これは光る。うまい。

ほかにも諸々呑み込んで、ハッピーニューイヤーを感じさせてくれる、軽いけれど良作でした。

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2011.12.18

「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」

えらく力が入った定番作品。シリーズもので4作目ともなれば、いい加減手抜きになる場合も多いというのに、この完成度はどうだ、という仕上がり。以下ネタばれ。

今回は、ロシア、ドバイ、インドと場所を移しての、緩みのない展開。組織力から切り離されているにも関わらず、ベストなタイミングで都合良く調達される人脈や装備が、少し現実離れしているが、展開のスピード感優先なら、これもあり。しかしさすがに、ロシアからのたった1発の核弾頭ミサイルに対して、米国側のミサイル迎撃システムがまったく作動しないのは、いくらなんでもひどいとは思う。まあ、スパイ映画だから仕方がないか。

スパイ映画といえばガジェトだが(違うか)、今回はBMWのコンセプト車らしきもの http://www.bmw-i.jp/ja_jp/bmw-i8/ が走る姿が出てくるのが、ちょっとよかった。トム・クルーズに、ストーリーの中で「車もすごいぞ」と言わせた努力が実っている感じ。

映像特殊効果の技術はもう最近は言うまでもないことなのだろうけど、そうはいっても、冒頭のクレムリン爆破シーンはすごい迫力。911のようなことが現実に起きた後では、かえってリアリティが増したのは、皮肉というべきなのか。

シリーズが好きなら、一応見て損のないレベルだとは思う。それにしても、これはいつまで続くのだろうか。エピローグの後に次のミッションの指令があって、無人機の編隊の制御をテロリストに奪われたとかなんとか。

世にスパイ映画の種は尽きないとはいえ。

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「もののけ島のナキ」

その手でくるのはわかっているのに、泣ける。笑える。しんみりする。映画づくりの手練で、この話をここまで完成させたことに脱帽。原作を知らずに見る方が、断然、いい。それくらいに、お話として、原作を凌駕している。以下ネタバレ。

もののけが人の心を持っていれば、それはもうもののけではなく、人だ。その点で、「もののけ姫」のもののけたちと、この作品のもののけは違う。もののけ姫の最後のシーンで、サンとアシタカが交わした会話は、もののけと人が根本的に異なる生き物だということ、そして、にもかかわらず、通じる部分もあることを表している。

この「もののけ島のナキ」のもののけたちは、基本的には人だ。親子の情があり、未知のものを恐れ、仲間や友達を想う。彼らが人と異なるのは、その外見と、風俗習慣や使う技だけ。とわかれば、もののけのかわりに異国の人でもいいわけだ。

ただし、このお話には、原作にはない前提が取り入れられている。主人公の赤おにナキと青おにグンジョウは、かつて人間との戦の中で親を亡くしたという過去を持っており、その恨みや悲しみが残っている。この恨みをもって、彼らは晴れて、本来の意味の「物の怪」たり得ている。はずだ。もののけ島のほかの仲間はアニミズム的な「物の化」であって、ナキとグンジョウとは少し違うようなのだが、輪郭を曖昧にすることで、ソフトな味わいになっている。

その二人が、人間の赤ん坊コタケを得て、面倒をみることで、人に対する恨みを次第に溶かしていくことが、このお話の主軸になる。クライマックスでは、恨みを忘れまいとする心と、それでも仲良くやっていきたいという心を、グンジョウとナキの争いという形に集約している。そして最後に、原作から拝借したとっておきの隠し味。んー泣ける。

未知のものに意味もなく恐れをなす必要はないことを、こども向けにわかりやすく楽しく教えつつ、同時に、人に共通する良い面と悪い面についても示唆するお話になっており、情操教育にもとてもよい。家族連れには最高の一本。いわゆるアニメ作品のような商業主義的な匂いがないのもよい。

そうそう、「ヒックとドラゴン」に並ぶよい作品、ということも付け加えておきたい。こういうタッチのアニメーションが割と好み。次は、「メリダとおそろしの森」が待ち遠しいです。

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2011.12.13

「フェイク・クライム」

日本語公式サイトを見ると、ヴェラ・ファーミガとキアヌ・リーブスの名前の位置が逆になっている。興行側の熱意はそれくらいか。無学の悲しさで、チェーホフという作家を全く知らないが、それでも映画を見るには支障はない。とはいえ、英米の演劇界でのチェーホフや「桜の園」の位置づけを知っていれば、もっと楽しめるのかもしれない。

クライムという言葉がタイトルに含まれているが、暴力とは無縁で、むしろ元金融詐欺師のひとたらし術とか主人公男女の恋の駆け引き、銀行強盗一味のトンネル掘りの真剣な滑稽味、などを、「桜の園」の台本に重ね合わせて見るというアイデアを楽しむ映画。だと思う。そして最後は「桜の園」のエンディングを裏切る展開。

ストーリーはそんなところだが、むしろこの作品は、役者が光っている。元詐欺師役のジェームズ・カーンを見ているだけで退屈しない。役者で場がもつ、というのは、すごいことだと思うのだが、普段は気付きもしないそのことが、この作品でははっきり見える。ヴェラ・ファーミガも負けず劣らず。キアヌ・リーブスも引き立て役として(主役なのに!)いい味を出したと思う。少しおっとりぼんやりしたイケメン、というのが、もしかすると向いているのかもしれない。

そんなにひどい作品というわけでもない。ただ、チェーホフうんぬんでは、日本で一般受けは狙えないのは興行側もわかっているだろう。でも私は、役者たちのおかげで、結構満足しました。

[追記] チェーホフってそういう人だったのか。

国民不在のTPP知財協議に待った──thinkTPPIPら有志が政府に緊急声明を提出

 日本の演劇界は、チェーホフの作品をほぼ無償かつ自由に改変するかたちで上演してきたが、これはチェーホフが40代で亡くなった影響でもある。これがどれほど演劇文化の発展に寄与したか。

 TPPで保護期間が70年になってしまうと、発展途上国もこれに準じることになるだろう。私たちが受けた恩恵を、これら途上国から取り上げてしまっていいのか。

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2011.12.11

「リアル・スティール」

シンプルなストーリーに、ボクシング物語が元来持っている熱を乗せて、確実に観客まで届く作品に仕上がっている。登場するロボットは個性豊かで、男の子心をくすぐる。シングルにもカップルにも割と見やすい作品。家族連れにはこの熱はあんまり向いていない。以下ネタばれ。

主人公ロボットは、廃材置き場で拾われてから、その特殊な機能(才能)を開花させながら、世界チャンピオンに挑んでいく。最後に、闘いに勝って試合には負けるという、ボクシング物語の定石を踏むわけだが、その過程はあつい。

何体もの格闘ロボットが登場する中で、「動物園」と呼ばれる場末の闘技場のチャンピオンロボットが、愛嬌があっていい。そこそこの実力で凄んではいるものの、よくある自滅的負け方。その操縦者はパンク風の若い男だが、見かけによらず割と正直者。何か、素朴なアメリカを見る思いがする。単なる思い込みかもしれないが。

試合でインチキをする場面が出てこないのがいい。陰湿な妨害工作はアメリカンドリームのお話にはふさわしくないし、なによりこれは、忘れ去られた古いロボットが勝ち上がっていく筋に重ね合わせて、機械に仕事を奪われ生き方さえ見失った普通の人間が、再生していくお話でもあるのだから。

人間とロボットの協働を高いレベルで実現することで、機械が独自に何でもこなす相手に打ち克つというのが、このお話の核。人の存在を不要にするような機械の在り方は、ここでは抑圧的なものとして否定的に扱われる。その抑圧的な仕組みを動かしているのが、外国訛りの英語を操る美女と謎の東洋人というところが、米国人の主流を占める多数派の複雑な心境を表しているかのよう。
主人公ロボット”アトム”を操縦する少年を引き取って育てようとする金持ちの叔母さんが、ヒラリー・クリントンのそっくりさんなのは、どういう含意なのかと考え込んでみたりもする。

途中、”アトム”が少年の言葉を理解しているかのようなシーンを見せて、しかし掘り下げはしないなど、本筋から遠いところは潔く切っている。お話の構成としては少々不満だが、単なる機械に対する過剰な思い入れを描かない点は好ましくもある。自然科学の産物たるマシーンは、本質的に再現可能であって、それゆえ量産できるものなのだから、この醒めたスタンスは正しい。

などなど、いろいろ想像を刺激してくれつつ、昔ながらのあついストーリーをちゃんと感じさせてくれる、出来のいい一本でした。

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