「サンクタム」
洞窟探検の一行が、嵐による鉄砲水で出口を塞がれ、未知の経路を探りながら脱出するまでを描いた作品。3Dでなくてもよかったが、3Dで奥行き感は確かに出たかもしれない。底知れない洞窟の深みを描くには、それは不可欠だと、作り手は思ったのだろう。暗く美しい洞窟の映像を背景にしながら、しかし実は、人間ドラマで見せる映画。ナイーブな神経にはややきついかもしれない。以下ネタバレ。
脱出に集中する主人公の探検家の言動は、時に非人間的に映る。脱出行を共にする仲間からさえ、そう見られてしまう。彼の息子も、途中まではそうだった。実際、陽の当たる地上では、社会性ある人間の行いとは思えない。
絶体絶命の非常時に際してさえ常識を温存しようとする周囲から、彼の行動はことあるごとに避難され、とうとう探索そのものが行き詰まりそうになったとき、彼が言った言葉がある。「洞窟に入ると迷いがなくなる。ここは私にとっての教会なのだ。」
このセリフが、この映画の核心と言える。
強烈なプロ意識、目的への強い集中力といったことはもちろんあるだろうが、それだけでは、時に非情とも思える彼の行動は説明しづらい。しかし、このセリフを聞いて、私はこの映画を受け容れることができた。
あの暗い洞窟は、彼にとっては全宇宙そのものであり、人の生死も、その中では相対化される。いつか自身も同化するときを予感しつつ、何事もないかのように、日常を過ごしている。これは一種の悟りに近い。
ただの洞窟探検にそこまで入れ込むなんてと思わずに、彼も我も五十歩百歩と思う感性を持つ向きには、お勧めの一本。
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