「モールス」
原題は"Let Me In"。英語圏での興行成績はよくなかった由。陽気な映画が好きな人にはお勧めできないが、私は割と好み。ネタバレは、できれば読まずに観るのが吉。以下ネタバレ。
「悪はあると思う?」 予想だにしない場面に出くわして、衝撃を受けたいじめられっ子の少年が、離婚調停中で遠方にいる父親に、涙を流しながら電話でひとり尋ねる。もちろん父親の答えはどうでもよい。母親も最後まで顔は出ず、この作品では両親は添え物だ。12歳のひ弱な少年は、ひとりで、選ばなければならない。同種の仲間の悪と、それを阻止する異種の悪のどちらを受け容れるのかを。
少女が何者なのかは、映画の中盤あたりで判明する。そこからがこの映画の見所だ。永劫の命を持つ者と、死すべき人間との間に、私的な密約が暗黙のうちに成立するまでの、綱渡りの過程。おそらく、不死の者の側には、十分な目算がある。しかしそんなことは、ただの一度も感じさせない。いずれ確実に破綻に至る関係であることは、すでに作品の冒頭で示されている。少女の父親とされる初老の男の哀しい最期が、静かにそれを語っている。
12歳の少年は、これが破滅への道だとわかった上で、最後は運命のままに決断するに至る。
SHE WILL KEEP YOU SAFE (So,) "Let Me In"彼はある意味で大人になったのか、それともそれを拒んだのか。
互いに交わらない世界を生きる異種の被造物どうしが、陽の光を遮る壁を隔てて、か細いモールス信号で意思を通わせようとする、哀しい物語。萩尾望都の「ポーの一族」も少し連想させる、中身の濃い一本。
調べてみると、監督はマット・リーヴス。「クローバーフィールド」は正直いまひとつわからなかったが、この"Let Me In"は文句なくよい。「LET THE RIGHT ONE IN」というスウェーデン映画のリメイク(”マット・リーブス・バージョン”)だそうだが、もとの映画が"THE RIGHT ONE"と言っているのを、"Me"としたのは、作り手の好判断。観客にも選ばせている。
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