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2010.09.15

「悪人」

公開直前に、モントリオール世界映画祭で最優秀女優賞を受賞した、というだけで、観にいってみる理由になる。悪人とは、という問いが表に表れているけれど、裏には、日本の地方の実情があり、これを外国人が理解したのかどうかは、やや疑問が残る。深津絵里が肌もあらわに大胆演義というだけで受賞したのだとしたら、本来もっと評価されなければならない点が見逃されたことになるのだが。以下ネタバレ。

「悪」と「罪」を取り違えるところから、悲劇というドラマは始まる。この映画は確かに「悪人」という言葉しか使っていないが、実際には、外形的に犯罪、それも殺人という重罪を犯した「罪人」の内面を描いている。彼が悪人なのかどうかという点が、この作品の表の問いだ。答えは中盤であっさり出されている。殺された女の父親のやや長めの台詞がそれだ。案外普遍的なテーマで、それだけなら少し退屈だったかもしれない。

ところが、この映画にはもうひとつのキーがある。”死んだ魚のような目”がそれだ。主人公が逃避行の中で立寄った料理屋で、生き造りで出された烏賊の死んだ目の中に、自らの罪の回想を見つけるシーンに象徴されている。そんなマニアックなところに気づかなくても、そもそも物語の前半での主人公の目を見れば、そこに問題があることはすぐにわかる。そして、この目は伝染する。物語も終盤になって、主人公の祖母が禿鷹のようなマスコミの待つ家に戻る決意をしたあとの、あの目。さらに、逃避行を共にした女が最後に、”あの人は世間からは悪人なんですよね”と何かを抑えて言ったときの、あの目。外見はもう死んでいるのに、中には生きている人間がいて、呪詛の声を上げている。その声は死んだ目の厚みを通じて、遠い世界の風の音のように聞こえる。

地方の疲弊は言われて久しいけれど、都市で生まれ育った私には実はよくわからない。また、これは映画だからもちろん誇張はあるのだろう。それでもなお、映画にされなければならない何かがあるとしたら、恐ろしいことだなと思う。

そんなところからはなるべく早く逃げ出して、東京へ出て来いと言いたくもなる。ところが、そもそもこの罪人を作り出したのは、そうして安っぽい夢を抱いて都会へ出てきた女だった、という伏線めいたものに、はっとさせられる。

短くて単純な問いかけだけれど、これは困ったものを見せられた。
という点で、観る価値のある一本。

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