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2010.09.19

丹沢で遭難未遂

一月前から予約していたキャンプへ。長期の休みは当分無理そうなので、久しぶりの閑古鳥キャンプ場でたった一泊。シーズンもそろそろ終わりに差し掛かって、すいているはずと思ったのだが、案に相違して繁盛している。風呂を作ったり竈を作ったり経営努力が実っているのだろう。

通い続けて10年以上は経つだろうか。道志みちは架橋や拡幅が着々と進み、近年は交通量も多くなっている。山肌に貼り付くようなつづら折れの険しい道が記憶に残っている者としては、少し寂しい気もするが、地元の人にとっては良いことの方が多かろうと思えば、素直に喜ぶべきか。

道の駅も交通量に比例して賑わいを増している。地場産の紅伊豆という大粒の葡萄と大玉のトマトを食材に買って、一路キャンプサイトへ。

新しいテントを早速設営。広い。前のに比べて圧倒的に広い。室内床の幅がやや広がっただけでなく、インナーが左右両方に全開放できるので、前室と同様に後室も使える。荷物置き場に困らない、風通しがよいなどの実利に加えて、心理的に相当広く感じる。ちと贅沢すぎるくらい。

今日は炭と食材を少々持ってきたので、火をおこして食事。肉を焼いて、パンにトマトにグレープフルーツ。途中で買った葡萄も少々。このトマトと葡萄の美味いこと。観光地で売っている野菜には当たり外れがあるようだけど、これは大当たり。値段も東京のスーパーと同じ。すると街中で毎日食べているアレは何なんだろう、ああ輸送費か、とつまらないことを考えたり。

食後の腹ごなしに、沢沿いに歩く。沢岸が歩けなくなるあたりから、尾根目指して斜面を登る。途中、ちと嫌なものを見かけた。

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杉の皮が剥がされている。鹿だろうか。この付近の5本に1本はやられているようだ。針葉樹は、水や養分を通す管が樹皮のすぐ下を通っていて、それが幹の全周にわたって剥がされてしまうと、確実に枯死するそうだ。こういうものを見ると、鹿がかわいいとか何を寝呆けているのかと思う。

尾根にたどり着くと、下草の笹が掃われていて歩きやすい。最近の作業だろうか。木々を見ると、登ってきた北斜面と反対側南斜面とで、樹種がくっきりわかれていることがわかる。
ふきすさぶ寒風と甘やかなそよ風の邂逅。

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この境目に沿って登っていけば、迷うこともなかろう。てくてく登る。時々枝の合間から南側の山並みが見える。

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足元を見ると、所々こんなものが。

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「ああだめじゃ。ここも胞子にやられている」「この森はもうだめじゃ。焼き払うしかあるまい」とか、ミト爺ごっこ。
そうこうするうちに、尾根の頂上付近に着く。天辺ともなれば陽当たりもよいらしく、広葉樹が針葉樹を完全に退けている。しばし休憩。

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さて、汗も引いたし戻るか、という段になってはたと気づく。この付近は一面広葉樹で、針葉樹との境目がない。頂上の手前で薮が深いところがあったので、少し回りこんで登ってきたのが災いした。帰り道がわからない。目印を残してくるべきだったが、頂上近くで気持ちが高揚していて忘れた。迂闊だった。


登りというものは、明るい空という方向感があって、迷うことは少ないのだが、降りるとなると360度どちらへでも行けてしまう。困った。

無理に気を落ち着かせてしばらく考えているうちに、曇った空に陽が差してきて、方位だけはわかるようになった。ありがたい。
方向を見定めて歩き出すが、50歩もいかないうちに異常に気付く。どう見ても着た道とは違う。必死でもう一度考え直して、方向を定めなおす。先程とは正反対が正しい道だ。

よほど動転していたらしい。後から思うと、なぜ1回目に間違った方向を正しいと思い込んだのか、謎だ。山で遭難するときというのは、こういうものなのか。

さて、なんとなく見覚えのある道を辿って、登ってきた斜面と思しきところの上に出る。あとはここを降りていけば、最初の沢に出るはずだ。

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ひょいひょいとおりていく。ジーンズの膝が曲がらないので少し面倒だ。山歩きの人が履いている半ズボンは合理的なのだと今更気付く。

沢に下りてみると、なんとなく違うようだ。少し上流へ振れたのかもしれない。流れに沿って下っていけば本流の川に出るのは間違いなかろう。気楽に下っていく。途中で鹿に遭遇。足元ばかり見て歩いていたらいきなり、だんっと地を蹴る音がしたと思ったら、逃げていく鹿のお尻だけが見えた。この沢にはあまり人が入ってこないらしく、向こうも油断して接近を許したのかもしれない。姿が見えなくなってからも、キッという鋭く大きな鳴き声が聞こえる。仲間に警報を出しているのだろうか。

この辺りから、完全に沢を間違えていることがわかってきた。行けども行けども見覚えのある地形が出てこない。やばいなーこれわ。
一応、斜面の樹種から考えて、降りる方向は間違えていないから、いずれはもとの川筋まで戻るのはほぼ間違いなかろうと気を取り直して歩くこと20分ほど。ようやく人里の建物が見えてきた。助かった。

結局そこは、もとのキャンプ場からやや下流の別のキャンプ場だった。普通は人など入っていかないはずのところから、ひょっこりむさい奴が現れたので、多少不審がられたかもしれない。

あとは、車道をてくてく歩いて宿営地に帰り着く。笑い話で済んで本当によかった。

火を起こして、肉と葡萄とパンの残りを平らげる。炎の上がる強い炭火で一気に炙った肉はうまい。グラム99円の豪州産ハナマサ肉だなんてことは全く関係ない。結局、今日だけで700グラム強をぺろりと食べてしまった。


広いテントの中で寝転がって、今日の間違いの感覚を噛み締めて記憶に残す。早期に修正できて大事には至らなかったが、人は判断を間違えるものだ、それも、自分は正しいという確信とともに間違える、ということは忘れないようにしよう。山歩きに限らないことでもある。

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