「電子書籍の衝撃」はバランスよく知識を整理できるけれど出版社の救いにはなりそうにない
著者のつぶやきなどを読むほどネットに親しんでいる人なら、この界隈のお話の筋は概ね知っていることだろうけれど、この本は雑然・漠然とした知識を整理した形で見せてくれる。文体も読みやすい。
考えてみると、「一定範囲の知識をきちんと整理して見せる」ということ自体が、ネットのダダ漏れ的な知とは一線を画す、書籍の特徴だろう。その部分を突き崩すことは難しい。この本自体が、ダダ漏れ的知識に一定の秩序を与えることで価値を生み出していることからも、それは明らかだ。
だから、書物の本質的な部分を、この本は否定しているわけではない。問題はその外側の流通にあるとしている。従来型のラベル(著者はパッケージと呼んでいる)を手掛かりにしていては、もはや読者は読みたい本と出会えない。
そこで必要になるのが、新しいマッチング手法であり、それは書物自体とそれを取り巻くコンテクストのセットがもたらす。書物から、旧来式の分類ラベルを取り去って、新しいラベルを付ける必要があるというわけだ。その動きは、カリスマ書店員や有名編集者による、作品の新しいグルーピングによって、すでに実現されつつある。
”コンテクスチュアリズム”は、書籍以外の分野でもよく言及される考え方のようだけれど、書籍という抽象操作の世界では、本体とコンテクストを意識的に並走させられる環境が、ネットの双方向性の力によって、現実のものになろうとしている。そのことが、最終章まで読むと腑に落ちる。
このビジョンが実現した暁に、作品のコンテクストをメンテナンスする主体は、従来の出版社や編集者の仕事なのかどうか。その点に言及はない。むしろ、無償で感想をネットに書き連ねるマイクロインフルエンサー達の可能性の方が大きいように、文脈からは読めそうだ。
そういう意味で、従来型の出版社にとって、ヒントにはなっても、救いにはならない本だとは言える。
読後の次なる関心事は、大きく様相を変えそうな出版社の今後ではなく、著者がいつどんな形で電子書籍出版を行うのかに移った。
ということで、早速こちら。「電子書籍の衝撃 本はいかに崩壊し、いかに復活するか?」 記念キャンペーンで110円でダウンロードできたそうです。でもなにか、よくあるアクセス殺到停止トラブルがあったとか。
こうして現実の問題をいろいろ乗り越えながら、進んで行くのですね。
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