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2009.08.29

「扉をたたく人」

孤独な毎日を惰性で生きている大学教授が、ストリートミュージックを愛する移民の青年との交流を通じて、徐々に心の扉を開いていくお話し、というのが表向きの筋だけれど、もうひとつの筋を重ね合わせて、いい味に仕上がっている。これも一種の米国の自画像なのだろうか。以下ネタバレ。

原題の"the Visitor"からそれとなく窺えるように、青年は実は不法移民というのが、このお話しの肝。れっきとした一等市民である白人の大学教授が、書を捨てて町で見出したものが、常に逮捕や送還に怯えながら生きる彼ら不法移民の現実だ。さらにこの作品では、青年をシリア出身とすることで、911以降、この自由の国で表面化した偏見の現実をも盛り込んでいる。アラブ系の青年を逮捕したり、留置所で官僚的な対応を見せるのが、揃ってアフリカ系を中心とする肌の黒い米国人ばかりで、白人は一人もいないことが、ことの理不尽さを殊更に際立たせているように見える。意図的にキャスティングされていることはたぶん間違いないだろう。

結局、青年はあえなく国外退去になり、彼の美しい母親も、教授との束の間のロマンスを残して故国レバノンへ去っていくのだが、教授の心には、それまで忘れ去っていた人がましい魂が戻る。911からイラク戦争に至る軌跡に対する後悔を、やや都合よく癒そうという感じもしなくはない。
封切時は4館でスタートしたこの作品が、270館にまで膨れ上がったのは、老いた教授の人間ドラマだけが理由だったろうか。

もっとも、移民が実際にどう生計を立てているかなど、踏み込んで描いているわけではない。その点では、教授が人間らしさを取り戻していく表の筋書きにも十分な力点を置いているといえる。表と裏の二つの筋がほどよく重なり合って、軽めの味わいに仕上がっていることが、この映画の評価に繋がっているだろうか。

公開終了間際で観たけれど、見逃さなくてよかったと思える一本でした。

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