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2009.04.18

「スラムドッグ$ミリオネア」

アカデミー賞受賞ということで観にいってみた。もちろん良い作品だし、発展の熱気の中にあるインドの人たちにすれば、強く勇気付けられる作品ということでもあるだろう。以下ネタバレ。

主人公がどん底の暗闇から輝ける頂へ駆け上がるという筋は、一種のアメリカンドリームと受け止めると、とても分かりやすい。駆け上がるルートは、アメリカの場合なら、例えばボクシングやバスケットボール、欧州ならクラシック音楽やバレーであるかもしれない。この映画ではそれが、クイズ番組、という趣向。

といっても、クイズ番組自体で深みを出すのではなく、それを話しのトリガーに使って、番組回答者である主人公の半生を振り返させる形になっている。このあたりのアイデアがうまい。

その半生は、わずか十数年の間のこの国、というよりムンバイという都市の、急激な発展を映し出して、たいへんな落差を感じさせる。その中で、捨ててきたもの、犠牲になったもの、変わらず残ったもの、いろいろあるのがお話しの味わい。宗教対立あり、ドル経済の浸透あり、インフラの発展あり、貧富の格差と犯罪の蔓延も当然あり、などなど、二つの世紀が並存しているカオスが、案外あっけらかんと描かれている。

こんな背景と筋をもし日本の作品としてつくったなら、たいそう湿っぽいことになるのだろうけど、これがインド式なのかどうか、運命論風にあっさりしている。主人公の少年期の終わり頃、こざっぱりした服を着られるようになった彼が、生き別れた少女を探すためにスラムへ戻ってきたときに、昔の仲間でいまも物乞いをしている、目を潰された少年が、「君は運がいい。僕はそうでなかった。それだけのことだ。」と、何の感慨もなくさらりと言ってのけるあたりに、その空気が色濃く出ている。もちろん、二人の人間力には大きな開きが実はあるのだけれど、そうした個々人の力が発揮され始める以前の幼い時期に、既に決定的に定まってしまう運命が、まだあの国周辺にはある、ということを感じさせる。「運命」はこの映画のキーワードだろう。

最後は普通にハッピーエンドで、主人公のカップルが、インド映画にお馴染みの例の賑々しい音楽とともに踊りまくるのは、欧米映画を見慣れた目には新鮮。インドの娯楽映画ではお馴染みのものだと聞いたことがある。

決して軽いテーマでもないし、最後まで惹きつける魅力があるのに、観終わってみるとひどくあっさりした印象だけが残るのが不思議。インド風の一流のエンタメの感覚を感じさせる、とでも言えばいいだろうか。


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