「バーン・アフター・リーディング」
泣く子も黙る(はずだった)CIAを、思いっきりおちょくった映画。それとも、世界をリードしてきた(はずの)偉大なるアメリカ市民を、これでもかとばかりにバカにした映画か。ふたつを行きつ戻りつしながら足して2倍したような作品。以下ネタバレ。といっても、読んでもなんのことやらわかりません。映画自体がそうなので、これを理解するには、見てみるしかない。
途中までは、真性おバカ映画。俳優さん達は全員が、微妙な馬鹿振りを滲ませるのに成功している。その辺りさすがに一流。"It's fantastic!"って、なんて素直な。というか、”ぼけ突っ込み”の”ぼけ”だけで”突っ込み”役もいっしょにぼけて盛り上がっている感じ。
中ほどで、意外な展開から深刻な事態に。と思いきや、確かに表面上深刻ではあるけれど、相変わらず馬鹿馬鹿しさが底流をしっかり流れている。時折CIA高官の部屋で行われる報告の場面が挿まれていて、それとの落差が、この展開の言いようのない馬鹿らしさを意識させる。
事態が流動化しだすと、それまでの設定や伏線が次々に玉突きを起こし始める。この手の込みようは見所。一段で終わらず、二段三段四段と用意されている。なりゆきを監視しているCIA上層部ではないが、偶然がもたらしたその複雑さに頭を抱えたくなる。でも、現実なんてこんなもの。今、米国が抱えている内憂外患も似たようなものではない? というのが作り手のメッセージか。
そう考えると、CIA高官の”全員うまいこと消えてくれ”願望はとても共感できる。(ここは笑うところ)
彼の最後の問いかけ”我々はこれで何を学んだか”には、その勿体ぶった物言いも含めて、米国の深い虚脱感が込められている、と見るのは穿ち過ぎだろうか。
ひとつだけ確かに言えることは、結局最後まで生き残ったばかりか当初の望みまでしっかり叶えたのは、最も馬鹿で非常識で何の見通しも持っていないと思えた彼女。しかしながら自分の欲望を単純なまでに強固に主張し目標に向けて最短距離を目指して行動し続けた彼女、ただひとりだけだった、ということ。そういえば彼女はロシア大使館員を相手に「私はアメリカ市民よ馬鹿にしないで」とまで言い切ったのだった。いまこの時、そんな恥ずかしいことを言えるのは・・この彼女だけ。男には無理。というわけかどうか知らないが、男どもはどいつもこいつも半端に優柔不断で全滅。
エンドロールで流れる、だるさ全開の曲"CIA MAN"が、この映画の気分を一番ストレートに表しているので、終わりまでちゃんと聞きましょう。
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