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2008.10.11

「イキガミ」

例によって原作漫画は読んでいない。この設定は、普通のお話しなら物語後半からクライマックスにかけて展開するおいしいところだけを抜き出すための奇手にも見える。一種の反則のようでもあるけれど、それを使うことで、よくある物語とは異なる作り手の意図を伝える効果を狙い通りに出している点で、傑作とも言える。以下ネタバレ。


小学校入学と同時に、人口比で約0.1%の子供に、20歳前後のある日突然死をもたらすマイクロなんとかを接種するという法律があるという設定は、いかにも空想じみている。その法律の趣旨は、一定数の犠牲者が若くして死ぬことで、残りの大多数の平和ボケを防ぐのに効果があり国家の繁栄に資する、ということらしい。死ぬべき時がくると、その24時間前に、犠牲者の元へ役所から通知が来るのだ。その通知の名称が「イキガミ」。あ行の「アカ」をい行にずらして「逝き紙」とは、戦争中の「赤紙」に対する強烈な皮肉。

身近で現実の人の死について何かを想うときは、自ずと謙虚な気持ちになるものだが、この作品で設定されている法律は、人の死を扱っていながら、その謙虚さがない。そこがこのお話しの核心だ。作中に登場する政治家も役人も、人の生き死にと国家の繁栄について大いに語るのだが、その饒舌、あるいは尊大と冷徹は、謙虚とはほど遠く、欺瞞を感じさせる。

お話しは、死を語る欺瞞に対して非難を向けるのだが、その対象は、国家のようなありがちなものにとどまらない。予定された死を「事件」として取り上げ、売上部数、視聴率、あるいは販促の話題づくりに活用するメディアも槍玉にあがる。

さらには、選挙を前にした議員が、息子にイキガミが来たことを選挙活動に利用しようとする様を取り上げ、人格のない国家やメディアだけでなく、ひとり個人でさえ、他者の死によって利益を得ようとするあさましさを描き出す。

国家のような捉えどころのない巨大なものを悪役に仕立てて非難するステレオタイプは多いけれど、この作品はそれに止まらずに、様々なエピソードを取り上げているところがよい。犠牲に選ばれた人の健気な振る舞いは、犠牲を強いる側と好対照に、それぞれ彩りを添えてややテンコ盛り状態だが、イキガミを届ける善良な役人を各エピソードを貫く存在として配置した上で、最初と最後に、彼の職場での恐るべき出来事とその結末を描いて、全体に一貫したメッセージ性を持たせることに成功している。

テーマが面白いだけでなく、ディテールまで含めたお話しの構成も、よく出来ている一本でした。

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