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2008.09.20

「この自由な世界で」

2時間弱のよい加減の時間内に、英国の今の断面がきっちり収められた作品。重めのテーマが苦手な人にも見易い仕上がりになっていてお勧め。以下ネタバレ。

観たのは先週だが、どうも考えがまとまらない。とりあえず、今時点の感想だけ書いておく。

映画の公式サイトに簡潔な背景説明がある。

イギリスでは現在、居住権(Right of Abode)を持つすべての英国市民、および欧州経済地域(EEA:European Economic Area)の加盟国民に対しては、イギリスにおける居住と就労に制限をしていない。
しかし、2004年5月のEU拡大以前のEEA加盟国民に制限はないが、EU拡大で新規に加盟した8カ国(加盟したのは10カ国だが、そこからキプロス、マルタを除く)からの労働者に対しては、労働者登録計画(WRS:Worker Registration Scheme)による管理を行っている。
イギリスは2004年5月のEU拡大に際して、東欧の新規加盟国からの労働者に労働市場を開放した数少ない国のひとつ(ほかにアイルランド、スウェーデン)で、2004年以降に東欧からの移民労働者が急増した。
2004-2005のイギリス内務省の統計によると、2004年5月-2005年12月の登録者数は約32万9,000人。政府が当初見積もっていた年間1万3,000人という数字をはるかに上回った。そして8カ国のうちポーランドは全体の59%を占め、その数は群を抜いている。
となると、何が起きるかはなんとなく想像がつく。

口入屋というものは、扱う商材が商材だけにいろいろと難しい。その難しさが映画では描き出される。作り手は必ずしも、この女主人公を責めてはいない。むしろ、自立を目指して奮闘する様を見る眼差しは暖かいとも言える。他国が東欧からの移民を制限している中で、ひとり英国がそれを受け入れ、曲がりなりにも雇用を作り出していることは、決して責められることばかりではないはずだ。そうした思いもあるのかもしれない。

同じ地域の中に、賃金の安い人とそうでない人との塊がある。前者は法律で保護されておらず、後者は法律の枠の中にいる。つまり、そこには歪がある。雇う側からすれば、前者はコストが低く歓迎さるべきもので、後者はそうではない。公的立場から見れば、前者の存在は社会正義の存在を疑わしめるので好ましくなく、後者だけで地域が成立していると見せかけたい。一個人として見れば、前者は哀れまれるべきだが同時に疎ましいものであり、後者は自分自身であり批判や考察の埒外だ。

そうした状況の中で、どのようなバランスを保つのがよいか、というあたりが、この映画を見るポイントだろう。おそらく大多数の観客は、主人公の友人の、どちらかといえば良識的な立場を支持するのだろうと思う。けれども、良識を守っているだけの彼女には、新しい雇用を生み出すことはできなかったのは明らかだ。社会規範や良心の呵責を時には脇に押しやる粗野な主人公の方が、あるいは世の中の役にたっているのかもしれない。

肝心なことは、彼女が自分のしていることを多面的に眺めて、その功績と罪を等しく視野に収め続けることなのだろう。最後のシーン。友人も去った後もなお、ひとりでビジネスを続ける彼女がふと見せる迷いは、そうしたバランス感覚が決して死んではいないことを窺わせる。作り手の意図もそこにあって、英国社会の復元力や英知に期待している感じがする。

教条主義や過度な人道主義に陥らずに、事態をクリアに見ている作り手の眼が感じられて、よい作品でした。

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