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2008.08.24

「12人の怒れる男」

チェチェン出身の少年が起こしたとされる殺人事件をめぐって、12人の陪審員が喧々諤々の議論をする。その中で、彼らそれぞれの過去や背景がひとつひとつ語られることで、ロシアの今がおぼろげに見えてくる。映画という形式をとってはいるが、小説や舞台にしても十分に味わえそうな、内容のある一本。リメイクの元となった作品を観たことはないが、これは今年の十本の中に入る力作。以下ネタバレ。

男達それぞれの述懐がたいへん興味深い。1人が自分語りをし、他の11人がそれを聞く形が基本だが、聞いている男達の中から、「実にロシア的な話しだ」という反応が出るように、それは、近代的な法治国家のビジョンを一皮剥くと現れる、より古い社会通念の総覧でもあるかのうよう。「ロシア的」というところを「日本的」と置き換えてみれば、こうした構図は我々にもそっくりそのまま当てはまる。聞いていて、私はロシア人というものに深い親近感を覚えた。

その上、ロシアは少数民族を抱える多民族国家でもある。この事件自体、チェチェン紛争で孤児になった少年が、彼を拾って義理の父として育ててくれたロシア軍将校を殺害した嫌疑を掛けられているという設定だ。ほかにも、カフカス(コーカサス)地方出身者、ユダヤ人などが居て、議論に感情的な翳を落とす。

当初は、有罪が圧倒的だった議論が、徐々に逆転し、最後は議長役の一人を除いて無罪の結論に至る。その最後の一人が被告の少年を有罪とする理由は、今のロシアの深い闇を窺わせる。そういえばここまで、議長役の彼だけが、自分語りをしていない。

彼はただ、自分の本当の身分を明かし、深い苦悩の表情を見せるだけだ。そこには、あるいは、武力紛争の当事者として他の11人には窺い知れない経験が刻まれていただろうか。

彼が下した最後の決断と行動は、その経験の重みに支えられているように見える。他の11人に無く、彼一人だけに有るものだ。その彼が、最後の票決を前にして11人に向けた言葉は、ロシア人への痛烈な批判となっている。いや、ロシア人だけでなく、世界中の観客へ向けた問いでもある。

ロシア的なものを観ていながら、その実、もっとずっと普遍的なものを見せられたような、味のある一本でした。

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