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2008.06.07

「ザ・マジックアワー」

館内大爆笑。笑いあり、涙もちょっとあり、しんみりあり、どたばたあり、最後は丸く収まって、大満足の一本。以下ネタバレ。


映画製作の舞台裏ネタと、それとは全く無縁のヤクザ稼業を噛み合わせて、すれ違いや勘違いで笑わせるのが基本線。もちろん、本物のヤクザ屋さんがそんな風に騙されるわけはないだろうけど、そこはお約束。妙なリアリティの不備を突かない観る側の作法さえ弁えれば、大爆笑間違いなしの傑作。

三谷幸喜監督脚本が有頂天ホテルで見せた、複雑な関係の絡め方とその納まり方は、この作品でも健在。それも、今回はわかりやすい範囲に収めて、やりすぎ感を避けているようでもある。観ている側からは、うまく収めたなと思える上限ぎりぎりくらいで上手さを感じる。

設定の奇想天外さから来る、腹がよじれそうな笑いは、贅沢な背景として大いに楽しめるけれど、それと同時に私は、この映画に、作り手としての一本の筋を感じたので、それだけ書いておこうと思う。

お話しの前半、佐藤浩一演じる、うだつが上がらない役者の村田が、殺し屋「デラ富樫」の役にだんだんのめり込んでいき、「この映画、スタッフは素人だが、俺がこの映画をものにする。必ずする。」と気合の入った意見表明をする場面がある。その台詞は、お話しの文脈の中にしっかりと嵌っていて、極めて自然に流れていくので、その時点ではこのシーンの重要さには気付かない。
さて、後半、その村田が、自分の演技を写したラッシュをスクリーンで偶然目にする場面がある。それを観た村田は、目に涙を浮かべて、「俺の最高の演技」を引き出した「監督」に例を言い、役者を辞めるふんぎりがついたという。
ところが、クライマックス手前、嵐の前の静けさの一場面。暮れなずむ街角で、村田が、尊敬する往年の名優から、「私が名優に見えるのは、一緒に映画を作ったスタッフたちのお陰」と諭され、役者をもう少し続けてみる気に戻る。
そして迎えたクライマックス。二段構えのピンチの中で、村田は、あっと驚く方法で、映画製作の仲間達の力を借りて、本物の殺し屋をみごとに素手で撃退する。

彼、村田は、最初、自分の力でこの映画をものにすると力み返り、一見、その想いどおりに自分の最高の演技ができたと感じて辞める決心をし、ところが、そんなところでもう止めてしまうのかと、その思い上がりを、尊敬する先達に諭されて思い直し、そして、まるでこれ以降の彼の役者人生を啓示するように、スタッフ達と一体になって、「本物の殺し屋」という厳しい現実に打ち克つのだ。

お話しの笑いと涙の影に、まるで隠すように埋め込まれたこの一本通った筋は、この映画を、単なるどたばた喜劇から一級の映画作品に押し上げるに、大いに力になっていると思う。これを、まことにさりげなく、しかし観る者にわかるように挿入した、脚本家の力量、作品に取り組む真摯な想いの発露には、頭が下がる。


そんなこんなで、この映画は、三谷自身がテレビで言っていた、彼がお手本とするディズニー映画に、勝るとも劣らないよい映画となった。どうしてもテレビっぽいところが残るのは、ご愛嬌ということにしておこう。

誰が見ても、どこかにきっと満足を感じられる、まさにお手本のほうな、必見の一本です。

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