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2008.04.12

「王妃の紋章」

豪華。ただその一点だけで観る価値のある映画。もちろん「HERO」や「LOVERS」の監督さんだから映像の美しさは言うに及ばず。なんとなく国威発揚っぽい興行だけど、それは置いておいて純粋に目を楽しませる映画として素晴らしい。以下ネタバレ。


金と赤が基調の華麗な王宮内部を見ているだけで、眼福。瑠璃を多用したという内装は、華やかの一言に尽きる。これが、時刻を告げる行列とともに、シーンの切り替えに何度も使われていて、そのたびに目を奪われる。

国王夫妻の金一色の衣装も、龍と鳳の意匠とともに、素晴らしい出来。本物の王族が使ってもおかしくないのではとさえ思わせる。因みに私が一番よいと思ったのは、自刃を図って床に臥せっている長子を王が見舞ったときの、豪華ながらも多少ゆったりした感のある一着。
なぜ、王の衣装を一番に挙げるかというと、王妃の衣装も負けずに凄いのだが、そのデザインが、胸の谷間をひたすら強調したもので、衣装よりもそちらについ目を奪われるから。下から持ち上げるコルセットのようなデザインのようなあれは、たぶん中国由来ではないのだろう。


さて、お話しの内容の方は、一言で言えば家族の内紛だけど、王家だけに周り中を巻き込んで始末が悪い。家来や隠密、果ては軍隊まで使って徹底的にやってしまいました、というもの。根っこのところでは、最近日本でもニュースになる家族内の猟奇事件と変わるところはない。

しかし、いかにも中国らしいところもいくつかあった。覇王はあくまでも、最初の不幸な后との間に生まれた長男がかわいいのだ。この子のためだけは涙を流すことが出来る。第二、第三王子とは別格の扱い。長子に家督を譲る封建的な感性が生きている感じがした。(今でもそうなのだろうか?)。同時に、王を暗殺などしたら真っ先に疑われるのは長子であるということが、当然の了解事項としてお話しに組み入れられたりしていて興味深かった。これは長子相続原則の裏返しとしての真理なのだろう。長子には動機があるというわけ。

表面の華やかさと対照的に、反逆軍の粛清の仕方とか、反対派の殺し方とかは、みごとに残虐。このあたりは香港映画もそうだけれど、漢民族の感性なのだろうか。少数精鋭の治安部隊の黒装束などは、その武器の禍々しさと相俟って、不吉感はなかなかのもの。もっともこのあたりは、華麗な映像との釣り合いを考えると丁度いいのかもしれない。

お話のクライマックスでは、反逆軍がいいところまで攻め寄せるのだが、結局、王が伏せておいた正規軍に押し返され鎮圧される。このあたりは、権力に逆らうものは容赦なく鎮圧、という中国の今を映しているのだろうか。

ここで興味深いのは、両軍の色使いだ。反逆軍が華麗な金色。正規軍は鈍い銀色。
はて。

この映画では、金は正当性の表出であるはずで、色彩感覚に優れた監督が知らずに使ったはずはない。それが、文字通り鉄壁の防御に、押しつぶされるように、一敗地にまみれている。そして、エンディングの歌。点案紋をふと連想したのは、私だけだろうか。

あるいは監督は、共産党批判の一切が封じ込められている今の故国に対して、密かに皮肉を込めたのではないか。

いずれにせよ、映画の最後は、圧倒的な権力とその運用に長けた、父権の勝利を印象付けている。これが別の結末で終わる映画が澎湃と湧き上がってくるのは、まだ少し先のことになりそうだ。


俳優さんたちはいずれも素晴らしい演技。特に、王を演じたチョウ・ユンファは、出色の出来。これは渋い。長子を見舞うときの、王としての人間味の出し方。反逆者を屈服させようとするときの容赦のない傲慢さ。幼稚で姑息な愚か者に対する純粋な怒り。
覇王らしさを余すところなく演じたといってよい。

この春必見の一本。

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