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2008.04.29

「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」

アクの強い叩き上げの石油屋が、世の偽善欺瞞とあくどく対決し、あるときは屈服、あるときは勝利しながら、最後に「Yes! I finished!!(俺が勝ったどーっ!!)」と雄叫びを上げるよれよれの姿に思わず立ち上がって拍手するという、熱くなれて最後に爽快感極まる映画。
たぶん、「欲望」や「破滅」や「人格崩壊」を言う紋切り型の映画評と全然違う感想だろうけど、私はそのように観た。そして、どのような観方をしようと、映画として傑作であることは疑いない。以下ネタバレは読まずにまず観るのが吉。


なるほど、この主人公には人に数倍する欲望がある。最初は石油で一山あてて金持ちになりたい、故郷の家以上のものを手に入れたいという程度の小さなものだったかもしれない。それが、油田の掘削に成功するに従って大きくなっていく。

しかし、その感情は徐々に、欲望とはやや異なるもの、勝利への執念とでも呼ぶべきものに変容、というより、「成長」していく。欲望に従って真っ直ぐに進もうとする彼の前に立ち塞がり屈服を求める様々なもの、欺瞞、偽善、優越への安住、卑屈など、彼のあまりにも自立心溢れる尖った部分にかちんとくる全てのものが、その感情を(意に反して)育むのだ。

これが単なる欲望ではないと確信を持って言えるのは、彼が時折見せる、言いようのない苦悩を見るからだ。息子代わりに育てている子が聴力を失ったときの動揺、腹違いの弟と偽って近づき、身近になりすぎた男に怒りを爆発させた後の孤独と悲しみ、そうしたものが、単に欲望にまみれた極悪人の図式を否定する。

確かに、彼のやり方はいささか度を越しているときがある。特に、勝利するだけでは足りず、相手を侮辱し負けを認めさせるまで食い下がるしつこさは、マッチョというだけでは説明できない悪癖だろう。
けれども、現場作業から資金調達まで、掘削機の製造から地主との交渉まで、全てを自分で手がけてきた彼にとって、その程度はむしろ必要にして当然の性質だったと言えなくもない。タフな叩き上げ、独立系事業者とは、時折そうして精神の平衡を保つ。

この凄まじく存在を主張する男を演じたダニエル・デイ=ルイスは凄い。受賞履歴が公式サイトに載るのも頷ける。
特徴的な音楽で場面ごとの空気を作り出したジョニー・グリーンウッドも凄い。特に、油井炎上の場面の音楽は非常に斬新で、底なしの不安、不屈の挑戦心、冷静な計算、その他いわく言い難い気持ちの混在をみごとに表わした。
要所要所に的確なエピソードを挿入して、主人公に彫りの深さを与えた脚本家も偉い。

そして、監督のポール・トーマス・アンダーソンに感謝。


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