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2008.03.29

「悲しみが乾くまで」

突然の夫の死。現実を俄かには受け入れられない妻。その苦悩と再生、と書くと、ありがちなお話しだけど、エピソードのディテールを大切に積み上げて、再生の過程を丁寧に描いた、味のある一本に仕上がっている。以下ネタバレ。


夫婦というものは微妙だ。家族というものもそうだ。普段は空気のように気軽に争ったり和解したり気に掛けなかったりしているが、失ったときの喪質感は言い表し難いものがある。それも、このお話しでの男の死は全く唐突に理不尽な形で訪れる。
葬式に現れたのが、生前の夫が何かと気にかけていた幼馴染で麻薬中毒の男。妙に家族のことに詳しいのは、夫から折に触れ聞いていたらしい。

妻が夫の死を受け入れて、再び自分の人生を歩き始める過程で、この男は大きな役割を果たす。それができた理由は、家族の日常のディテールにこの男が明るかったことが大きいだろう。家族を家族たらしめているものは、案外、些細な日常の集積なのかもしれない。そうした眼差しがこの映画には感じられて、航空会社の広告ではないが、愛だの恋だののその先をきちんと捉えていてよいと、私は思った。

この映画のもうひとつの良さは、完全には程遠い人間どうしが、あるときは助ける側に、またあるときは助けられる側に、立場を入れ替わりながら、相手に手を差し伸べて生きていく姿を自然に描いていることだろう。義理人情とか道徳などとは違う、その差し伸べられた手に、この映画は"善(Good)"の言葉をあてて、"Accept the Good."という印象深い台詞を生み出している。

これはあるいは我々日本人の心情にマッチしないかもしれないが、私には親しみ深いものに思えた。

このところ、通り魔殺人が毎日のように報道され、テレビには残された家族の様子が、バラエティの一部のような扱いで無造作かつ無神経に映し出されるけれど、そういうときこそ、この"Good"というシンプルな言葉を思い出してみたい。


「映画の悲しい場面を見ているような」空ろさと張裂ける寸前のような緊張を見せたハル・ベリー、麻薬中毒者と善人の貌を持ち、世間に対する遠慮と、子供たちに対する寛容や信頼とが同居する男を演じたベニチオ・デル・トロ、いずれもたいへんよい味を出していた。また、この二人の関係が、単なる男女の仲に堕することのないように、適度に脇役達を交えた脚本、その役をきっちり演じた役者さんたちもたいへん良かった。とりわけ、隣人であり亡き夫の出資者である男を演じたジョン・キャロル・リンチが、私は好きになりました。あれが好きになるというのは、私もおじさんの仲間入りなんだろうか(笑)。

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