« 走るスポーツドリンク | Main | 姉歯事件の激しい余波(第一波) »

2007.08.12

「怪談」

暑い真夏の日曜の昼間っから。ひんやりぞくぞく涼しい風が。
と思ったら空調の風でした。
現代というのはこうしたものを心底楽しむには、まことに風情の薄い時代なのだ。
とはいえ、この映画を私はとても楽しめた。怪談としてではなく別の意味で。以下ネタバレ。

私としてはこのお話しを、黒木瞳演じる可愛らしい中年女豊志賀の死んでなお濃い情念に沿ってではなく、むしろ、頼りなさげなくせに開き直りだけは一人前の未熟な男新吉の暴走の方に沿って観た。だって黒木瞳可愛ゆ過ぎ。そんな怖~い幽霊には見えない(笑)。あの舌足らずの甘えたような話し方は、幽霊の戦慄からははるかに遠い。

さて、その豊志賀の寵愛を一身に受けた新吉が、狂気の果てに絞め殺したり切り殺したり破滅させたりした相手は、何だったか。とい点が、私はとても気になった。地方ボスの姪にはじまって、その娘、愛人、そしてボス本人と郎党全部を含む地域に根を張る共同体。

おやおやおやぁ?

これはもしや、故郷で親を亡くし辛い目にあった姉妹が、都会へ出て長じて成功した後に、ニートをうまく操って、かつての故郷で幼い自分達を苦しめた村落共同体とそのボスを徹底的な破滅に追い込むという、手の込んだ復讐譚なのじゃない? そして、役目を終えた愛しいニートの首を黒木瞳は優しく抱いてこの世からフェードアウトしていくのであった。なんてこった。美しすぎる。ぜんぜん怪談じゃない(笑)。
 

穿ちすぎですかそうですか。
 

そんな風に感じる切っ掛けになったシーンがある。
それはクライマックスの少し手前、新吉が郎党どもを切り殺し自らも瀕死の重傷を負って逃げているところを、豊志賀の妹お園が救う場面だ。チリーンと澄んだ鈴の音が、お園と新吉を引き合わせる。この時すでに新吉が多数の人間を殺めていることをお園は知っている。にも関わらず、お園は新吉を手引きして最後の地へといざなうのだ。

小さな、吹き消されそうな鈴の音。それは、遠くない昔、新吉がお園にみせたほんの小さな気遣いだった。新吉にとっては何気ないことだったかもしれないが、お園には人から優しくされた数少ない体験だ。もらった鈴を大切に持っていたのに違いない。それがお園にとって大きな喜びであることがわかるほどに、対比してお園の日常の殺伐が感じられて胸に迫ってくる。

おかしなことだが、私はこの地味で目立たない出番も少ないお園に、一番泣けた。この映画のキーであると思った。

 
そういうわけでこの映画は、怪談の体裁をとってはいるが、既成の権力に押し潰されそうなばらばらの人間の悲哀と安息の道を示しているように、私には思えたのでした。
江戸の庶民は、隠喩を使ってこういう危険思想(?)をも消化して楽しんでいただろうから、講談とか落語とかは油断がならない(笑)。
 

映像について、少しだけ不満が。豊志賀と新吉の最初の出会いは雪の降る季節のはずで、出演者の衣装もそうなっているのだが、にもかかわらず映像からは暑苦しい季節の感じが漂ってくる。俳優さんの顔のてかりがそう思わせるのか、それともロケ地の土の、霜もおりていない乾いた色がそう思わせるのか、素人の私にはよくわからないが、どうもそこは気になった。

尾上菊之助の、ものに憑かれたような表情や、瀕死の演技などはさすが。女優陣のそれぞれの役柄との相性もよかったと思います。

なんだかんだで、長々と書くということは、私はこの映画を気に入ったんだな(笑)。

 

|

« 走るスポーツドリンク | Main | 姉歯事件の激しい余波(第一波) »

映画・テレビ」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/7081/16086571

Listed below are links to weblogs that reference 「怪談」:

« 走るスポーツドリンク | Main | 姉歯事件の激しい余波(第一波) »