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2007.02.12

「幸せのちから」

この映画はバランスがよい。劇的な誇張はないが、見て素直に嬉しくなる作品。以下のっけからネタバレ。

 

この主人公に、ひとつの見習うべき特質がある。
それは、「怒らない」ということだ。

この男が置かれた状況は、かなり困難で打開するのが難しい。確かに、最初のつまづきは、勇んで大量に仕入れた骨密度測定器がさっぱり売れないという、リスクに対する自身の備えの甘さが原因だったわけだが、それにしてもこの男は忍耐強い。

それも、怒りたいのを押し殺しているというよりは、その怒りを別の前向きなエネルギーに変換しているかのように見える。それがこの男の力だ。つまらない種類の怒りをいつの間にか溶かしてしまう習性とでもいうか。

映画はその力を、まだ小さな息子を手元に置いておくことに帰したいようにも見えるけれど、あまりそれに拘ってもいない。むしろ、この男の、幸せを信じる気持ち、未来の不安ではなく目の前の課題に対して自分で立てた打開策に集中する、根っからの頭の良さに焦点を当てている。

そう、怒らない、ということは、頭の良さの証明でもある。
怒る、ということは、課題や障害に対して打開策を考え出すことができず、持て余したやるせないエネルギーを感情として爆発させ(て自己崩壊を防ぐ)ことに他ならない。何も生み出さず、幸せを遠ざけこそすれ引き寄せることにはならない。

もちろん、不条理や理不尽や不公正に対する深い怒りというものは、人間が失ってはならないもののひとつではある。映画の中でもこの頭の良い男は、そうした不公正に対しては怒りを隠さない。

しかし、彼が示しているように、日常の身過ぎ世過ぎのあれこれについては、怒るのではなく、淡々と、できることなら楽しげに対処するのが、むしろよい結果を生むようだ。

そういった、身の処し方のお手本を、この映画を通じて、観る側は感じ取ることが出来る。そうした人が、実話として成功を収めていると聞くのは、たいへん励まされることだ。
 

怒らない頭の良さに加えて、もうひとつ、貧民救済院で彼がホームレスに混じって歌う一節も重要だ。

「神よその石を取り除かないでください。私の躓きであるその石を」
古い起源を持つこの言葉は、曲解されやすいけれど、主人公の頭の良さと結びつくと、ごく自然に聞こえる。ものごとを他人のせいにしない、自分で対策を考えて実行するというあたりまえの一節が、この男の置かれた状況の中でたいそう力強く響く。

年金やらニートやら世代の責任やらと見苦しく言い争っているわしらは、ここから何を読み取るべきだろうか。

そんなこんなで、観た後たいへんに気持ちが良い、お勧めの1本。

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