美しい人
原題は"nine lives"。9人の女性を描いた9つの短いエピソードを集めたもの。
ネタバレあります。できれば読まずにまず観ていただきたい。
8つ目のエピソードまでは、正直、少々辟易する部分もあった。確かに女の人生は男のそれより複雑でたいへんかもしれないと思いつつも、男の自分にとっては、女ってやっぱり鬱陶しいところがあるなあ、というか。
それが、最後9つ目の、たぶん一番短くてあっさりしたエピソードで、不覚にも泣いてしまった。それも二重の意味で。それまでの8つのエピソードの意味が一気に重なってきた感じで。
9人目の老婦人が、不思議に年の離れた幼い娘の膝に頭を預けながら言う「ちょっと疲れたわ」の一言は、観る方はその場はなにげなく聞き流してしまう。
ところが最後のシーン、この老婦人が起き上がって一人で立ち去るわずか数秒間で、この9つ目のエピソードの意味が稲妻のように観客に示されて、さきほどの一言の重みがずっしりとくる。それだけでも泣けるのに、これが引き金になって、前の8つのエピソードまでが、いきなりひと続きのように遡って次々と思い起こされて、その、数秒間に凝縮された時間の中に不意打ちのように一気に積み上げられる。そうして示された女の一生というものの意味のあまりの重さに、思わず涙が流れてしまったのだろうと、振り返ってみればそう思う。
これは、意図してつくったとすれば、卓越したセンスと言うほかない。
さらに私には、鑑賞者としてのほかに、これに涙する二重の理由がある。
ブログに個人的なことはあまり書かないことにしているので、自分の記憶に留めるだけのために簡単に書いておくのだけど、私はこの老婦人の一言と同じ言葉を聞いたことがあったのだった。
私の母は、サラリーマン家庭の専業主婦と違って、いろいろ苦労が多かったはずだが、ほとんど不平不満を言わず、いつも笑顔を絶やさないように努めている人だった。その母が、珍しくこの一言をふと口にしたことがあった。そのときも、私はなにげなく聞き流してしまったのだが、妙に心に引っかかってはいたのだった。
それを聞いてから程なくして母は他界した。
私はあの一言に報いる何もすることができずに、ただ母を見送ったのだった。
そういうわけだから、この映画は私には、ひどく泣けるものとなった。
悲しい、というのとは少々異なるのだが、ただ、泣ける映画だった。
だから、担当者には気の毒だが、この馬鹿げた邦題は全くの的外れだ。一体何を観ていたのか。
と怒ってみせることで、なんとか涙をこらえてみる。
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