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2006.03.17

階層化と分裂の違い

中国政府だけが脅威なのか?

中国が、漢字ベースの新しいドメイン名を複数作成すると発表した。
このエントリが参照しているCNETJapanの元記事では、
「・・中国が作成するドメインがトップレベルなのかセカンドレベルなのかで情報が錯綜している。現在は状況が不明だ」(ICANN)
と伝えているから、まだ憶測であるという前提はある。その上で、もし中国政府がTLDの運用を始めるのだとしたら、興味深いことなので、仮定の話しとして少々考えてみたい。

まず、上のエントリの結び

企業のVPN利用を認めるように、彼らのルールも理解した上で、それでも彼らのインターネットにいろいろな面から積極的に関与していくことが大事なのだと思う。
は、少々考え違いがあると思う。

企業のVPNはインターネットの名前空間に、何も影響を与えない。あくまでもインターネットを伝送路として使いながら、その上に仮想的なネットワークをつくるだけのことだ。
それに対して、もし中国政府がTLDの運用を始めるとするならば、それはインターネット(=The Net)と同じ仕組みで動く別の実体が、インターネットと並行して誕生することを意味していて、VPNとはかなり異なる。

ここで、混乱を避けるため、以降では、これまでのインターネットを「ザ・ネット」、中国政府のTLD下のネットを「中国ネット」と呼ぶことにする。
 
 
ザ・ネットと中国ネットの最も重要な違いは、管理の有無とそれについての利用者の自覚の有無だ。

普通にインターネット(ザ・ネット)を使う利用者には、自分が誰かに監視されているという自覚はない。また、実際に監視されているわけではない。なぜなら、ザ・ネットは曲がりなりにも「通信の秘密」を保障するという基本理念に支えられているからだ。(エシュロンの話しはとりあえず棚上げしておく)
もし、ザ・ネットの上でVPNを使う時には、利用者は、ログインからログアウトまでの間は、VPN管理者(例えば企業の情報システム部門)に自分の受発信がすべて記録され、場合によっては(言葉は悪いが)監視されているという自覚を持つことができる。
これが、ザ・ネットと、その上に仮想的に構築されたVPNの関係というものだ。

それに対して、中国ネットではどうか。ネットアクセスの最初から最後まで、VPNと同様の管理(と監視)を利用者は受けることになるおそれがある。なぜなら、中国政府は「通信の秘密」も「言論の自由」もあまり尊重しているようには見えないからだ。

ここで、ひとつの危険が浮上する。
これまでの「通信の秘密」が保障されたザ・ネットを使い慣れた利用者は、間違って中国ネットにいつの間にか入り込んでしまっても、自分が管理されている自覚を持つことができないおそれがある。VPNを利用するときは、ログイン/ログアウトという行為がその自覚を促したけれども、中国ネットではそれがない。

CNETの元記事にこうある。

「同じドメインに複数バージョンが存在するようになり、システムに対する信頼が失われる可能性がある。・・・(中略)・・・エンドユーザーは自分が利用しているルートサーバに確信が持てなくなる。2人の別人につながる電話番号が存在するようなものだ」(.nameドメインを管理する機関のCEOのRasmussenさん)
利用者は、自分が今利用しているのが、ザ・ネットなのか中国ネットなのか、わからなくなってしまう可能性がある、ということらしい。

自分がアクセスしているのが中国ネットであり、言動(特に当局を批判するような)は時に、リアル世界での身の破滅につながるという自覚を利用者が常に持てれば、それはそれで問題はない。
しかし、利用者の側に自分が監視されているという自覚がないまま、密かな監視が行われるということは、大変危険なことだと思う。

そういうわけで、VPNと中国ネットを同列に考えることは、やや問題があると私は思う。


ところで、(米国と対等になりたい)中国政府が、ザ・ネットではなく自前の中国ネットを持ちたいと考えている以上、いずれそうしたものができる可能性は高い。その際、これまで書いたような危険を避けるには、どうしたらよいか。

ひとつの方法だが、ザ・ネットと中国ネットの上に、新たに両者を束ねるルートサーバを置くという方法がありそうだ。そのルートサーバの管理は、適切な国際機関が行えばいいのではないか。

案外、中国ネットの狙い、というか落としどころは、その辺りにありそうだ。
そしてザ・ネット(実は米国ネット)の隠れた管理者かもしれない米国政府は、それにどう対応するか。
 
 
インターネットは国境を越えると言われてきたが、このところ俄かに、国とネットのどちらが卓越すべきかという問題が浮上しているように見える。ネットは国家のような物理的強制力を持たないから、一見、国家(とその法律)が卓越しているように見えるが、そこにあえて疑問符を付けてみるのが、昔気質のネットワーカー(笑)というものであるかもしれない。

以上、あくまでも仮定の話しでした。

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