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2004.05.08

ある交通事故の記録

車が人をはねるのを、初めて間近に見た。

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国道134号線を相模川から江ノ島へ向かう途中のできごとだ。両側を防砂林に囲まれた片側2車線の見通しのいい道を、私のバイクはどこの誰とも知れない1台の車と併走していた。

空は良く晴れて海沿いの道は潮の香りに包まれていた、その昼下がり。前後にははるかに信号もなく、歩道と車道を隔てるガードレールが延々と続くその道を、少しだけアクセルを開け気味に、私が左、その車は右車線を、他の車を引き離して先頭を走っていた。

私がはるか前方に道を横切ろうとする人影を認めたのはそのときだった。よろよろした歩き方で年寄りであることは遠目にもすぐにわかった。老人はこちらのスピードを窺いながら道の途中で行きつ戻りつしていた。さっさと渡ればよかろうに、年とともに判断も鈍るのか。あるいはこちらが止まることを期待したか。

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私は危ないなあと内心苦笑いしつつ、いつでも止まれるようにスピードを落としていった。人影はそれを認めたのだろうか。道の半ばで引き返そうとしていたのをやめ渡りきることに決めたようだ。反転したあとはもうこちらを確かめようともせず、中央分離帯に向かっておぼつかない足取りでよろよろと進み始めた。私はそれを見てさらにスピ-ドを落としていった。当然隣の車もそうするだろうと思って。


けれども。隣の車はそうしなかった。


スローダウンする私をするすると引き離してそのまま走り続けたのだ。嫌な予感がしたが私にはどうしようもなかった。

3.5秒後。
あと一息で中央分離帯にたどりつく直前に、なんとか間に合ってくれとの祈りも空しく、老人の体は高々と宙を舞い分離帯を越えて反対車線に落ちた。その車ははじめ何事もなかったように走り続けたが、やがて徐々にスピードを落として止まった。

降りてきたのは、ぼうぼうに伸ばしたあごひげを黄色に染めた年若い男と、連れの女。どうしてよいかわからずぼんやりするだけだった。私がナンバープレートを睨みつけていなかったら、あるいはそのまま走り去るつもりだったか。

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それからはお決まりだ。後ろから来る車の誘導にあたる者。老人を仰向けにさせて呼びかける者。反対車線に停止灯を置いて事故を知らせる者。トラックの運転手はこうしたとき頼りになる。私は携帯で救急車を呼んだ。

ほどなくして救急車が到着し、ことはわれわれの手を離れた。

老人がまだ生きていたのかどうかわからない。たとえ生きていても回復できるのかどうかもわからない。

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様子を見にきた近くの主婦は、ここを渡る人はずいぶん多いと話していた。老人にしてみれば、こんな道路よりずっと前からここに住んで、海へ出るのを妨げる者もなかったろうに。何百メートルも信号ひとつないこの広く長い道が、彼と海とを分かつまでは。

それでも彼は昔のように自分の家からまっすぐに海へ向かおうとした。それを責めることができるだろうか。あとから勝手に道路を引いたわれわれに。


彼の生活を分断した立派な道路。その硬い路床に横たえられて、老人は最後に何を想ったのだろう。

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