2021.08.02

「白蛇:縁起」

白蛇伝というのが、中国の民話では有名だそうで、様々な時代設定とバリエーションがあるそうだ。いずれも、人間の青年が美しい女に化けた蛇の妖怪にとりこまれそうになり、法力を持った僧に取り押さえられるというプロットのようだ。日本では道成寺を舞台にした話として子供の頃聞いた覚えがある。

さて本作は、その白蛇伝を元にしながらも、蛇の妖怪を善玉に置き換えて、人間と妖怪の悲恋に仕立てている。また、白蛇伝そのものではなく、その前世の物語としていて、なんと本編はこの作品の続編として2021年に中国で公開予定だそうだ。ぜひ日本にも持って来てほしい。

物語としては、主人公カップルの他にもさまざまなキャラクタが登場して、アクション、ロマンス、友情、姉妹愛、村人たちとの葛藤、悪辣な権力者たちとの闘いなどなどなど、面白さてんこ盛りに仕立てている。よいですなー。

絵や色使いや音曲も中国らしい感じがして日本のものとは一味違うところもよいです。

なにより、輪廻転生の思想を取り入れて、悲恋が悲恋で終わらずに次の生まれ変わりへと物語が続いていくので、救いがある。もちろん、悪役も、それから第三者的な立ち位置の化け狐(これは正邪いずれとも取引する武器商人みたいな位置づけか)も、その大きな流れに乗っていて、悠久の時の中で闘いは繰り返されるわけだが、いかにも中国らしいスケール感があってよい。解脱せずにいつまでも楽しませてくれれば、見る側としては文句ありません。

次も期待したいです。

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2021.08.01

「返校 言葉が消えた日」

B級テイストのホラーエンタテイメントでありながら、同時に、負の時代の影を織り込んで、最後にぐっと胸に迫る結末と後日譚へもっていく傑作。またいい映画を見てしまいました。

2019年の作品というから、台湾の総統選があった2020年1月に先立つ公開だったことになる。結果に少なからぬ影響を与えたともいわれることからも、強いメッセージ性を帯びた作品であることは言うまでもない。にもかかわらず原作はゲームだというから、まことに現代的な素性も持ち合わせている。風化しがちな記憶を新しい器に盛って見せたのが大ヒットの理由だろうか。

日本人にとって、太平洋戦争の暗い時代は遠い過去になりつつあるけれど、台湾の人たちにとっては、その後に続いた独裁時代は、まだそう遠くはなっていない。それに加えて、近年の大陸との摩擦のエスカレートは、ひとつ間違えば暗い時代の再来を招きかねないとの恐怖と緊張をもたらしている。

ちょうど、日本人が昭和末期からあの戦争を振り返るような、罪の意識を抱えながら明日をより良いものにしようとひたむきに足掻いていた時代を思い起こさせる。高度成長期に育った年寄りが胸に迫るものを感じるのもむべなるかな。
米国の傘の下にいた日本と違って、いまのところ自力で立つことが求められている台湾には、より強い決意が必要になっているだろう。

エンドロールの最後に出る
 平凡で
 自由に
という字幕が泣けます。

ただ、少し残念なことに、劇場を見回すと観客には白髪が目立つ。もっと若い人たちにもこうした作品の価値が広まるといいのだが。

ところで、主役を演じたワン・ジンさん、表情の作り方が上手いので、さぞ有名な女優さんなのだろうと思ったら、なんと14歳で小説家としてデビューしたのだとか。

世の中には才能に溢れた人っているものなんですねえ。ため息が出ます。

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2021.07.25

「竜とそばかすの姫」

仮想世界のいいところは、物理的な制約を離れて想像力を炸裂させられるところだけど、本作はそれをのびのびとやって見せてくれた。絵も歌も最高に気持ちがいい。

ネットは広大だという決まり文句があるけれど、それを動画で見せつけられる作品なんて、そうそうない。本作はそれをやってのけている。

アニメーションと映像技術は年々すごくなっていくけれど、これはその先端を行っている。なんという質感。なんという繊細さ。びっくりです。

というのが前半。もうこれだけで十分な気もする。

後半は一転して、リアルや生身の意味と価値を追求して、ネットでは及ばない感動を見せてくれる。その、人の感情を揺さぶる実名の真実を、リアルの限界の中ではなく、ネット空間で実現しているところがちょっと今風。

リアルのリアル部分は、本当を言うと少し理想的すぎる気もする。DVおやじが路上で振り上げたこぶしを収めるかというと、何とも言えない。こどもを殴りつけたところでご近所が警察に通報して逮捕、というのが例えば米国などでは常識だろうか。日本だと、みんな見て見ぬふりもあり得る。児童相談所の慎重過ぎる姿勢はよくニュースになるところだし。

まあ、そういうところは少し目をつぶって、BELLEの響き渡る歌声と、それに合わせて躍動する映像をたっぷり鑑賞しましょう。それだけでも十分アートです。細田守監督の観察眼とか画力とか構成力とか、その才能を全部堪能しましょう。

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2021.07.20

「ブラック・ウィドウ」

予告編で散々アクションシーンを見続けてきたので今更ではあるけど、一応見ました。やっぱり予告は見過ぎない方がいいと思いました。おいしいところはほぼ全部見てる。

意識的・無意識的に抑圧され行動制限されている女性たちをフェロモン・ロックというもので表現していたのはなるほどと思いました。そういうことって確かに一部であるかも。

このロックを掛けている悪役がまたいかにもな外見で嫌悪感をそそります。それでも、手作業ではなく爆発に巻き込まれる形の最期にしているのは抑制が効いてるなと思いました。

フローレンス・ピューさんを見る目的で行ったのだけど、本作ではいまいちな気がします。「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」では抜きんでていたように見えましたが、スカヨハと比較するとまだまだという印象でした。

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2021.07.19

劇場版「メイドインアビス」-深き魂の黎明-

1を見てからずっと続きを見たいと思っていて、amazonプライムにあることを知って見た。

骨太なテーマも、尽きせぬ想像力も、おぞましくも美しい造形も、幻想的なアニメーションも、そして優れた物語も、すべて1のままだ。素晴らしい。

そして本作では、この物語全体のおそらく骨子となっている、呪いと祝福、犠牲と高みへの到達、白と黒の相克を体現する人物、「黎明卿」ボンボルドが中心だ。たまりませんな。

このキャラクタをゲス呼ばわりするのが一般的なようだけれど、彼の意図はそれと少し違う。ひたすら真理を求め続けて、天秤のバランスを知り、それを明瞭化する者になったのだ。

本作で明かされる白の笛の生成の秘密が、そのことを雄弁に語っている。リコの白笛がどのようにもたらされたかを見れば、あまりにも明らかだし、アビスの呪いではなく祝福を受けたナナチの存在もそれと対を成すようなものだろう。

もちろん、レグの謎はいまだ明かされていない。それこそがこの物語を結末に導く鍵なのだろう。

なんだかわくわくします。
次を早く見たいような、少し先延ばしにしたいような、複雑な気分です。

 

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2021.07.18

「プロミシング・ヤング・ウーマン」

若さゆえの過ち、では片づけられない品性下劣な過去の行いを、人はどう扱ったらいいのか。大人の分別で忘れていいものなのか。

本作では、悲劇的な結果をもたらしたある事件を、皆が忘れ、言い訳し、傍観者になろうとする有様を、これでもかと咎め、抉ってくる。

男性で関わりのあった者は、二言目には、まだ子供だったと言い、女の方もその気だったと言い訳する。だが当事者の女性にその言葉は意味がない。

女性でそれを知っていた者は、同じようなケースはたくさんあって、女の側にも隙があったと言わんばかり。自分は公平に対処していると澄ました顔をする。だが自分や自分の娘が同じような目に合えば取り乱し怒りを露わにする。

唯一、金のために司法の力を悪用し加害者を援けた者だけが、ただ懺悔し赦しを乞う。ここは随分作り物めいていて、物語を現実離れしたファンキーな結末へ導く導線になる。

話が進み、主人公も過去へのこだわりを捨てて今の幸せを第一に考えようと「前向き」な姿勢に転じるものの、過去の記録を見せられて、それも叶わぬ夢だと悟る。

その先の転回は、見てのお楽しみ。

* * *

女性が男性と対等であることを主張するにあたって、どれほど多くの障害が十重二十重にあるものなのか、この作品は整理してくっきりと見せてくれます。

合間々々に挟まれる、日常のちょっとした性差別のシーンがまた効果的。主人公の女性が意味なく絡んでくる男の車の窓ガラスをバールで無表情に叩き壊す様は、圧し殺された怒りの大きさを思わせます。

ジェンダー問題というのは、男性の側からは自覚がないところに問題があるようです。一方、女性の側も、男目線の文化の中で問題が見えなくなっているところがありそうです。

この作品は、そうした人々の盲目ぶりを告発し意識化させているのですが、衝撃的な結末を淡々と、少し哀愁さえ感じさせる明るい調子に包むことで、直視し難い真実を、誰にでも見られるようにしている凄さがあります。

様々なハラスメントには、強者の横暴という共通の要因があるわけですが、本作はそれに巻かれそうになるところを踏みとどまり、はっきり異議申し立てに転じる点で、まことに現代的です。

そして、犠牲になった人々の遺志を宿して受け継いでいこうという呼びかけにもなっています。


ともあれ、観ましょう。

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2021.07.12

「スーパーヒーローへの道」

NETFLIX

スーパーヒーローというとアメコミを思い浮かべてしまうけれど、これはフランスが舞台の作品。テイストが違って面白いです。冒頭、主人公が朝のちびたコーヒーを淹れる場面で流れる音楽とかからして全然違う。

本作に対応するものは米国だとX-MENになるのでしょうけれど、見比べてみると、こちらの方がより日常に寄っていて親しみやすい。超人をひとつの要素として消化できている感じです。人間性に対する信頼の違いとかなんとかなんでしょうか。米国産のはむしろ超能力にストーリーが振り回されるのをよしとするところがある気がします。

CG使いまくりの派手な演出はないけれど、これはこれで満足度高いです。

ネット配信のお蔭で、アメリカだけでなくいろいろな国や地域の日常的な作品が見られるのって本当にいい時代になりました。

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「コジラSP」

NETFLIXで。

テンポのいいバラエティみたいで楽しめました。
タイトルにゴジラとあるから、当然怪獣映画ではあって、その部分は大迫力でよいです。ゴジラだけでなくラドンやらインドの神様を模したようなやつや蜘蛛の怪獣とかいろいろ出てきて、それだけでも大満足。これまでのゴジラ映画から美味しいところをコラージュしているみたい。中でも一番よかったのは、怪獣の大部分を、素のまま日常の空気に晒すのではなく、赤い霧のようなものと一緒に移動させて、神秘的な恐怖を作り出しているところ。怪獣が自分に適した環境を作り出しながら勢力圏を広げてくるという圧力が良く出ています。

で、そう書くともうこれは100%怪獣映画だと聞こえますが、全くそうではないのがまたよい。怪獣の圧倒的な存在感の重圧に作品を支配させてしまわう代わりに、軽いノリのSF的な筋書きを軸に据えていて好感が持てます。そこに少女の一種のサクセスストーリーも載せて、まさにバラエティ。

週末夜に一気に楽しめる程よいボリュームと相俟ってNETFLIXの楽しみ方の典型みたいな作品でした。

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2021.07.05

「ゴジラvsコング」

あの単なる怪獣映画をこんな作品に仕立て上げるとは。ハリウッドやはり侮れないです。人間対怪獣の一本調子にはさせない凝った筋書き。そして折り重なる複数の舞台設定。

これで地上のほかに地底世界も加わって、今後の展開がぐっと広がりました。シリーズ量産の舞台が整ったといったところでしょうか。

ゴジラvsコングの決着が気になる本作でしたが、予想外のものが出現してお話を盛り上げてくれました。前作でアレの切り落とされた頭部を買い取った人間が本作の真の悪役。まあ業深き人間とその化身とでもいったものでしょうか。怪獣と人間のこの世界に、明確な対立軸がこのたび打ち立てられました。

この世に神はただ一つ、みたいな話は受け入れられない我々アニミズムの徒は、今後もこぞってゴジラとコングと怪獣たちを応援していくのでありましょう。

といっても、今回は特に次への伏線はないので、話の起点はまた新たに書き起こされることになりそうです。楽しみですねー。

 

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2021.06.27

「ザ・シークレット: 希望を信じて」

2020年の作品だそう。NETFLIXでこういうのを手軽に見れるとは、たいへんよい世の中になった。

邦題はどうもぴんとこないので原題を調べると、"The Secret: Dare to Dream". dareは、実行する勇気を持つ、くらいの意味のようで、本作の中身にしっくりくる。激しくはないけれど、じんわりと勇気づけられ癒される。

お話は、夫を亡くして生活が徐々に困窮してきている母子家庭に焦点をあてている。子供たちも貧乏暮らしにめげていて、何か起きるたびに、悲観的な捉え方をするようになってしまっている。

そこにある男が現れ、引き寄せの法則というものを、子どもたちと母親に少しづつ教えていく。望むことを思い浮かべて、真剣に想うことで、本当にそれが実現していくということを、自ら汗をかきながら、実践的に示していくのだ。単に望むだけではオカルトになるところだが、実現するための具体的な方法を、小さいところ、可能なところから積み上げていくのが、たいへん好ましい。

それが、苦境にある家族に光をもたらし、マインドセットを変えていく。話の盛り上げにいろいろな障害はあるのだが、基本線は、悲観が楽観に、消極が積極に変わっていく様子をじっくり描いている。

小さな行いの積み重ねが人を変えていくということは確かにあるから、割と納得感のあるよいお話でした。子供たちが光のある方向へ素直に反応していく感じがとてもよいです。

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