2019.10.15

「魔界探偵ゴーゴリ 暗黒の騎士と生け贄の美女たち」

詩的で病的で魔的な中世風の探偵もの。主人公はロシアのエドガー・アラン・ポーという形容がぴったり。宣伝では一応ゴシックと言っているけれど、舞台はウクライナの片田舎なので、荘厳さはありません。むしろ土着の魔術っぽい雰囲気。そのただ中に、病弱だが貴族的な風貌の不思議な力を纏った男が降り立つ、という趣。

こういうの久しく見てなかったけど、やっぱりなかなかいいです。

三部作のうちの1ということで、2,3もWOWOWのコレクションにあるらしい。1だけでもかなり面白いけれど、続きを映画館でぜひ見たいです。

 

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2019.10.14

「空の青さを知る人よ」

「井の中の蛙大海を知らず」に続きがあるとは知りませんでした。検索してみると、例えばこんなまとめがあります。
https://biz.trans-suite.jp/20675

それによると、中国から日本に渡ってきたあと付け加えられたフレーズだそうで。何事にもバランスを取ったり視点や切り口を変えてみる、我々の得意なスタイル。一面の真理でもあります。大望を抱いて誰もがそれを達成できるはずもない現実に、向き合う処世の言葉でもあるかもしれません。

映画はその辺りを匙加減よくまとめています。SF的な小道具を使って、10代後半と30代とを出会わせ、理想と現実を向き合わせることで物語を生んでいる。そのファンタジーを使うのは一人だけで、他の人々は、親子、姉妹のように、ごく普通の世代間のつながりにして、現実にリンクさせているあたり、上手いです。

キャッチコピーで“二度目の初恋”物語と言っていて、もちろんそれがお話の軸なのですが、関わる人々の別の意味での成長物語が同時進行していて、厚みを感じさせます。むしろ、姉と妹の物語の方が、中心にあるようにも見えます。そういう多義的なつくりが、作品の質を上げています。

背景画も力が入っている。日本の地方の風景を克明に描いていて、これくらいが今の時代の標準になってきているとしたら、なかなか凄い。ハードルが上がっている感じです。

アニメをたくさん見る人にとっては、ある種のパターンかもしれませんが、たまに見る立場からすると、結構いい作品に思えました。映画は一発芸ではもたない長尺の世界なので、作品のレベルが高いのはむしろ当然なのかもしれません。

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2019.10.13

「パリに見出されたピアニスト」

パリの駅舎には、ストリートピアノなんてものがあるのねえ・・というのがまず驚き。日本でそういうことはまず考えられない。楽器店の店頭で、自由に弾けるのはあるかもしれないが。文化の違いですかねえ。。

このツイートとかにも、「駅ピアノ」というのが出てくるから、割と一般的なことなんだろうか。
https://twitter.com/phootahh/status/1179707830292451328
うらやましいし、かっこよすぎます。

さて、映画の方のお話は、少し作られ過ぎている感はある。偏見や格差、自己嫌悪など各種取り揃えて、格差解消理念を掲げてまとめましたというつくり。まあ、そうはいっても主人公のおじいさんは、たぶんそれなりに文化資産のありそうな人で、種を撒いてくれたからなんとか成立している。少し醒めた目で見ればそういうところ。

音は、映画館によってかなり違いがあるのだろうけれど、「蜜蜂と遠雷」のときほど良くはなかった。小さい劇場だから、それはまあ仕方がないか。

主人公の彼女に、coloredな人をもってきているのも不自然な気がする。それとも、これで自然なんだろうか。フランスも表面の理念とは別に、実際には差別がひどい国らしいから、こういうところに作り手の苦衷も感じられたりする。

エピローグで、晴れ舞台がニューヨークだけど、なんだかパリより上みたいで、まあ実際にそうだとしても、もう少し何か工夫はなかっただろうか、とは思います。

中心になる三人の俳優さんは、なかなかよかった。
特に、クリスティン・スコット・トーマスさん。割と好みかも。

そんなところですか。

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「ボーダー 二つの世界」

二つの種族がある。わけあって違う種族の中で育てられた者が、自分のルーツに目覚める。その際、同じ種族のはぐれ者と最初に出会い惹かれるが、その憎悪に巻き込まれる不幸がある。道を誤るかに見えたが、育ての親から教えられた善良さに救われ、はぐれ者を退けるものの、深く傷つく。

同族の絆と、己が善と信じる生き方との間で選択を迫られるのが、お話の肝。

割とありがちな筋書きだが、種族の設定が面白く、それに付随してファンタジー色の強い脚色がある。

例えばこれがアバターのような見目麗しいと言えなくもない異星人だと、また違った印象になるだろう。そこをあえて、この種族を持ってきたところに、少しキワモノ感を覚えなくもない。好き嫌いはその印象によって分かれるのでしょう。

お話自体はしっかりした骨組みで、悪くないです。
巷ではダイバーシティが持て囃されるけれど、どの程度までなら受け入れ可能なのか、暗に問いかけてきているような気もします。どうでしょうね。

公式サイトに載っている著名人たちのコメントが、様々な切り口を示して、この作品の奥深さを物語っています。

エピローグで主人公は、僻地に隠れ住む善良な仲間の誘いを受け取るわけですが、北欧人の間では、あの国ってそういう神秘を湛えているという位置づけなんだろうか、というあたりに微笑ましさを感じましたです。我々にとっての、遠野物語みたいなものなんでしょうか。

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2019.10.11

「真実」

この種のことを日本でまじめにやると、なぜか重苦しく湿っぽくなる印象がある。
我々は真実に向き合うのが苦手だ。演じることもまた真実だと信じられない。

だから、海外でこれをやってくれてとてもよかった。
軽やかで、諧謔があって、真実というものと戯れながら素直に向きあいやすい。

劇的な趣向は無い。
たしかに母娘が鋭く衝突する場面はあるが、大人の物腰で制御している。こういうところはハリウッド映画ではやれない良さだ。長い間に観客の違いが積もって、これを生んでいるのだろう。

代わりに、はっとさせる一瞬がたくさんちりばめられている。
上質な、という言葉をなんの含みもなく贈ることができる。

何度も見返して真似したくなる、とても良い作品でした。

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2019.10.09

「メタリカ&サンフランシスコ交響楽団:S&M²」

20年前にこの組み合わせでグラミー賞をとったとかで、その20周年記念かつ新しいアリーナのこけら落としということで公演があったそうで。音楽はさっぱりわからないけれど、先日「蜜蜂と遠雷」で味をしめたので、これはどうかなと行ってみた。

正直な感想としては、あまりうまい組み合わせとは思えなかった。3時間弱の途中で飽きました。ひょっとすると、ロックだけでも飽きたかもしれない。

ロックというのは、よく知らないけれど、例えば「春」を表現してみて、と言ったら、たぶん出来ないのではないか。「怒り」を演奏して、と言われれば、たぶん得意だろう。一方、オーケストラは、どちらもできるけれど、怒りの表現はロックより弱くなりそうだ。そう考えると、表現する対象に得手不得手がありそう。まあ当然と言えば当然だけど。

それで、この収録映像はどちらかというと、ロックの単調な力強さの方に寄っていて、オーケストラの繊細でふくよかな厚みは出ていなかった。仕方がありませんね。電子楽器の耳障りな音は大き過ぎて、劇場の音響も含めた環境で聞かせる管弦楽器の音を簡単に殺してしまう。

それに、ロックの方は音楽というより、ショー、あるいはパフォーマンスに近い。実際、ボーカルの人も、パート1が終わったところのトークで、自分たちの演奏を「ショー」と呼んでいた。まあ、そうなんだろう。

ということで、ちとはずれでした。
これに懲りずに、音楽ものも時々聞きに行くようにしたい。

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2019.10.07

「エンテベ空港の7日間」

1967年の事件というから、東京オリンピックの3年後。
当時は大成功した人質救出劇ということで、盛んに映画化されたらしい。
それが、なぜ今また。というのが初めに浮かぶ疑問だ。

映画作品としては、取り立てていうほどのものはない。少し脚色があるというのは、平行して映されるダンスシーンだろうけれど、それが特に必要とも思えない。あの一人だけ他と違う動きをするのは、殉死した中佐のことなのだろうか。

どうも、いまひとつ意図がわからない作品でした。

まあ、民間人を人質にとって何か要求を通そうとする時代ではなくなって、多少はましな世の中になったのかどうか。現地では相変わらずときどき実弾が飛び交ったりしているそうだから、あんまり進歩もしていないのか。

 

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2019.10.06

「蜜蜂と遠雷」

音楽はさっぱりわからないけれど、劇場に響き渡るピアノの音は素晴らしいと思いました。小学生の感想文のようですが。

それもそのはずで、実際に演奏しているのは、日本でも指折りのピアニストたちだそうです。もうね。それだけでおなか一杯。見てよかったわー。もちろん、生の音楽が持つ一回性は映画にはないけれど、そこはまあ少し目を瞑りましょう。

で、感想おしまいでもいいのだけど。


ピアニストという職業を人との争いの場としては描かずに、むしろ、音楽に魅せられた人々の共鳴する様を描いているのがとてもよいです。

この種の題材で、音楽とは関係ない黒い感情を絡めて描いてしまう作品も多いけれど、本作にはそうした嫌なところは全くありません。見ていてとても清々しい気持ちになれます。集中感、没入感、浮遊感、そして共鳴。

音楽の良さって、何かを洗い流して純化してくれるところにあるんだなあと、この作品を見ていると思えてきます。

ほんの少しだけ欲を言うと、演奏中のシーンは役者の上半身と鍵盤を踊る手とを交互に切り替えてつないでいくのですが、役者が映っているときの手の動きが曲とシンクロしていない感じが微妙に目立って、そこだけ気になりました。でも些細なことです。

映画はいろいろな芸術を取り込んで見せてくれますが、本作はその種の作品の中でも出色の出来と言えると思います。

 

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2019.10.05

「東京ワイン会ピープル」

この時期、日本のピアニストの卵たちを描いた映画も公開されていて、それを見ると、ピアノというものが、随分日本に根付いている印象を受ける。天才であると同時に職人であることも求められる技芸の世界だからなのだろうか。それは日本人の気質と会うのかもしれない。

翻って、ワイン会についてはどうか。この映画を見る限りでは、残念ながら根付いているとは言いづらい。カタログスペックやら印象やら、それっぽいことを語るだけで、鍛錬の要素がないからなのかどうか。

もちろん、生産者は日々研鑽を積んでいるだろうとは思う。日本の農家は真面目な努力家が多いだろう。けれども、出来上がったワインを飲む側はどうかといえば。。

もちろん、比較の対象を間違えているとは思う。ピアニストと比較するなら、ワイン醸造家をもってこなければならない。だから、トスカーナやブルゴーニュの生産者達を描いた作品は定期的に作られるし、映画としての質が備わってもいる。

ただ飲むだけの一般の我々は、飲み食いのことにそこまで命を懸けていないし、それでいい。そして、その程度の対象では、映画として成立させるだけのテーマにはなり得なかったのかもしれない。

というわけで、本作は、ちょっとこれはどうかなという作品でした。作りも素人っぽいし、映画館の他の通常のラインアップからは完全に浮いている。

そもそも、ワインなのになぜ東京? まあ、いいんじゃないですか。

 

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2019.10.04

「ジョン・ウィック:パラベラム」

第1章は見て、2章は見なかった。この3章は2章の続きで、4章に続く。
きりがありませんw。

まあ殺すわ殺すわ。荒木又右エ門36人切りどころではありません。100人くらいは軽く殺している。
お話はまあ適当で結構。これは殺して殺して殺しまくる合間に、任侠風の貸し借りを見る映画なのです。

本作の中でよかったのは、ひとつは、出だしのナイフ投げ合戦。逃げ込んだ博物館には、旧式の銃ばかりで役に立たず、代わりに大量にあるナイフは実戦に使えるものばかり。もう手当たり次第にびゅんびゅん投げまくります。あー爽快。

もうひとつよかったのは、モロッコへ移動して、ハル・ベリー演じる旧友とその飼い犬たちと一緒に、刺客を殺しまくるシーン。人と犬の動きが、計算されたとおりに連動していて、おっと思います。犬は相当訓練されているんだろうな。

その他は、寿司屋のおやじが自意識過剰でやばいのと、裁定人が無慈悲な美女でワタクシの好み。痺れます。

そんなところですかね。
第4章はさらにエスカレートしそう。

【追記】
裁定人を演じているエイジア・ケイト・ディロンさん、なんとノンバイナリーというジェンダーだそう。そういう人がいること自体、初めて知りました。わからんのー。

 

【追記2】

https://wired.jp/2019/10/05/jonwick3-ikeda-review/

しまった、こういう風に語ればよかったか。できないけど(笑

wiredの映画評は、たいがいピントがずれている感じがしてたけど、この文章はどんぴしゃり。

実際に、裁定人が「我々はハイテーブル」と威圧するのに対してウィンストンが「我々はニューヨークシティ」と拮抗するかのような発言をするのが、本作の頂点だったわけだから。

んー痺れる。

すると、「パラベラム」の意味は、本作3が次作4への助走であると考えると、すんなり腑に落ちる。ウインストンどう動いて、どう語るのか。

いやー。すげー。次はもうちょっと真面目に見よう。

裁定人にああいう名前、ああいう属性の俳優をあてた意味も、ひょっとすると深読みできるのかどうか・・・

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