2025.01.20

「敵」

https://happinet-phantom.com/teki/

筒井康隆が1988年に出した小説の映画化。原作は読んでない。

出だしからしばらくは、主人公の老人の丁寧な暮らしぶりが丹念に描かれる。この流れがとてもよく出来ていて、これだけを見ていてもかなり楽しい。

それが、徐々に・・・

老人が主人公なので、はじめ、敵とは死のことだろうかと当たりをつけておいたのだが、それは違っていた。いや、まあ死には違いないのだが、肉体的な死のことではなく、もう少し心の裡に関わるものだということが、見終わるとひしひしと感じられてくる。

公式サイトに載っている、主演の長塚京三という人のコメントがこの核心部分を言い当てている。「まだやり直しのきく年齢での「絶望」は、全き絶望とはいえませんからね。」
この俳優さんもただ者じゃないな。コメントを読めば映画の全貌がわかるくらいによく書けている。だから自分の感想文はもう書く必要がない。

1点だけ触れておくとすれば、遺言状の文面の変化だ。主人公はこれを一旦は書き上げて思い残すことはない風を装っていたものの、ときどきマックを立ち上げて未練がましく何度も書き直したりしている。

当初、それはひどく遠慮がちで、自分のような役立たずで無駄飯食いの文学の徒に過ぎない者が生きていてすみません的な、世間に右顧左眄するごときものだった。自分が培ってきた価値観が時代とともに古くなり、良いとされてきたものが無価値か悪であるとさえ変わってしまうことに恐れおののいているかのようだ。

それが、映画の最後、開封され読み上げられたときには様変わりしている。
死を目前にして、いままで逃げてきたそれら自分を否定するものどものに敢然と向き直って牙を剥いた老人の乾坤の息吹。生涯を費やしてきた文学・演劇というものに対する正当な評価を要求し、自分の死後もその価値を護ることを相続人に強要する居丈高なものになっている。

これがつまり、作り手の本意なのだろう。文学を通じて得られる心の深みを否定し疎外するものすべて、右は拝金主義から左は禁欲主義までに至るすべては、敵だ。

最高に良い映画でした。

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2025.01.19

「機動戦士Gundam GQuuuuuuX」

https://www.gundam.info/feature/gquuuuuux/mecha/1/

日曜だというのに仕事があってでも少し早めに帰れて家でカレーとか食べて寛ぎながらふとヤッホーニュースとか見たわけですよ。見てしまったですよ。
あんなネタバレ見ちゃったら行かざるを得ないよね。いま20時半。最終回は日比谷は間に合わないけど渋谷は21時半だから支度してバイクとばせば間に合う。
てことで見てきたわけね。

もうね。伝奇ものっていうんですかねあのプロローグは。ウケました。ガンダム自体のストーリーはどうであっても、ああいう掴みはほんと上手いよな。ガンダムカルチャーの共有を寿いでいますね。

おおムサイがかっこよく見える! 宇宙のくっきりした印影の中でまるで映画みたいだ。いや映画なんだけどね。でもブリッジ外回りあたりのディテールを後で見せられるとやっぱりムサイだな、とかね。
木馬は白くないとやっぱりだめだなとかね。

まあ本編の方はTVでお楽しみくださいなわけで見ないけど、NETFLIXに流れてきたら見るかな。
ああいうの渋谷系っていうんですかね。渋谷も変貌し始めているから、少し無軌道な若者の町と言う感覚はもう古いのかもしれませんけどね。主人公は親に言われて塾通いだからそれとも違うのかな。

大人の男は一歩も二歩も下がって、子ども達とやり手女性が活躍するっていうのは今どきの典型中の典型なのかな。

わりと面白そうな新作の始まりでありました。

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2025.01.12

「デッドデッドデーモンズデデデデストラクション」

https://www.netflix.com/title/81977774

NETFLIX 全17話

気になっていたけれど時間が無くて先延ばししていたが、やっと一気見した。屈託のなさと切なさが同居している若者特有のお話。その裏に重苦しい現実を抱き合わせて、独特の空気を醸し出している。

たぶん、たとえばベトナム戦争の頃はこんな感じだったのかもしれない。そういう意味ではかなりレトロな感性で作られているのだろうか。

真面目さを好む向きからは批判されそうな、主人公たちのオチャラケだが、重すぎる現実とちょうど釣り合っているように私には思えた。

一気見したので話の筋や展開に面白さを見ることができたが、週に1話くらいのペースだと、振り回されてわけがわからなくなったかもしれない。見方によって評価も変わるかも。

私的には割と好みの、いい作品でした。

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2025.01.03

「ビーキーパー」

https://klockworx-v.com/bkp/

正月映画はこうでなくちゃね。ほとんどノンストップのアクションでジェイソン・ステイサム大暴れ。トランスポーターの頃のすごい格闘シーンはさすがにお歳だしないものの、立ち技を駆使した立ち回りで無敵です。ヒーロー効果も120%。追跡するFBI捜査官が彼が通った跡を「竜巻が通ったみたい」と言うのですが、まさにそれ。

んで今回のラスボスが・・・いやまあ、確かに独立宣言で革命権というものを認めているらしいですけど、それかーっていう。まあぎりぎり寸止めでよかったとは思うけど。

キレてるのは映画じゃなくて大多数のアメリカ人なんじゃないですかね。
それを映像にして見せるのもまたアメリカ文化てことで、今年も正月はおしまい。明日から真面目に仕事です。

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2025.01.01

「ロード・オブ・ザ・リング ローハンの戦い」

https://wwws.warnerbros.co.jp/lotr-movie/

ちょっと見るのをためらっていました。不朽の3部作のイメージが壊れるのが怖かったからです。でも見てよかった。これはまぎれもなく指輪物語のひとつです。

というかね、こんなすごいプロの作り手たちが大喜びでLOTRの二次創作を本格的にやっちゃっていいんですかっていう印象です(^^;

もうね、最初の掴みのところでこのヒロインに惚れます。その後の展開もだけれど、最初がすごくいい出来。女性キャラにありがちななよっとしたところは皆無です。もちろん筋肉系のゲテモノではなく端正な力強さが漲っている感じです。

お話は中世的な価値観が底流にあるので、そういうのに敏感な人には向かないかもしれません。といっても、自立した女性という現代的な価値観も主人公の言動に十分織り込まれているので、それほど抵抗はないでしょう。

魔法の要素はほぼありません。むしろ普通の王朝興亡史のような趣です。でも考えてみると、三部作でも魔法は実は添え物で、むしろ友情とか勇気とか盟約とか知略とか運命の綾とかが主だったようにも思えるので、違和感はありません。

三部作の映像としてのハイライトは戦場の攻防でしたが、本作でも巨獣あり野戦ありの迫力あるシーンを楽しめます。そして悲劇も。

ということで、一部の隙もない素晴らしい仕上がりの指輪物語外伝でした。見逃さなくてよかった。

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「雲のように風のように」

https://www.youtube.com/watch?v=m_iqXFgdOj0&t=1s

酒見賢一が世に出た最初の作品である「後宮小説」をアニメ化したものだが、原作者の作風がよく出ていてよかった。

中国の古典をもとに紡ぐファンタジーというと、田中芳樹がよく知られているけど、私はどちらかというと酒見賢一の方が好きかな。善い人にも悪人同様いずれ死は訪れるし、それは必ずしも見栄えよいものでもない。そういう達観があるのがいい。大立ち回りが少なくて素朴なのも好み。

本作もそういうタッチで動乱の始まりを描いて終わるけれど、最後に動乱を治める者の因果の繋がりをさりげなく入れて希望を抱かせるのがとてもいい。

Youtubeでの無料公開は1月5日まで

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2024.12.30

2024年のベスト映像作品

2024年に見た映像作品の自分的ベスト(概ね見た順)です。年々自分の好みというのが絞られてきているようで、結果的に粒ぞろいになりがちで選ぶのに苦労します。

「ブルックリンでオペラを」
「ツイスターズ」
「レベル・リッジ」
「侍タイムスリッパー」
「ヒットマン」
「憐れみの3章」
「ノック 終末の訪問者」
「ゴンドラ」
「アット・ザ・ベンチ」
「ロボット・ドリームズ」
「お坊さまと鉄砲」

次点はこんな感じ

「ナイン・デイズ」
「ブルーアイ・サムライ」
「葬送のフリーレン」
「ルックバック」
「Shirley シャーリイ」
「あの夏のルカ」
「悪は存在しない」
「ハロルド・フライのまさかの旅立ち」
「バティモン5 望まれざる者」
「ロイヤル・ホテル」
「モンスターズ/地球外生命体」

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2024.12.23

「お坊さまと鉄砲」

https://www.maxam.jp/obousama/

これは結構な映画。銃社会のアメリカ、ひいては人間どうしの闘争を原動力とする現代社会への皮肉をこめながら、ブータンの社会のペースに巻き取って笑いと慈しみに変えている。お坊様が鉄砲など手に入れて何をするのだろうと思っていたら、我々には思いもよらない結末が用意されていて、この人たちには敵わないなと思わせられる。かといって、いまの我々の生活を捨てられるわけでもない。

もちろん、いろいろ上げ足をとることはできるのだが、そうしたくない、謙虚で素直な気持ちにさせられる、とてもよい映画でした。

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2024.12.22

「シークレットレベル 後半」

https://www.amazon.co.jp/%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%88%EF%BD%A5%E3%83%AC%E3%83%99%E3%83%AB-%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%83%B3%EF%BC%91/dp/B0DJPR7ZNH

amazonPrime 全15話中後半7話

前半とは打って変わって殺伐さはなくなり、内面の描写が多い。とはいっても正式な映画のように脚本に金を掛けているわけではないだろうから、お話はかなり粗い。アクションはなく物語も薄味となると、全体にもうひとつな印象になるのは否めない。

そんな中で、14話と15話はちょっと面白かった。14話は囲碁の話だと思うけど、対局が長安の都とリンクしながら、易姓革命のような話になっていて、中国らしいなと思った。
15話は、ここまでの低調な話を吹き飛ばすようなアップテンポでポップなお話で、しめくくりとしてはよくできている。

まあそんなところ。ゲームが題材という枷をはめられていて、想像を広げるには少し制約があったのかもしれない。やっぱり"Love, Death & Robots"の次が見たいな。

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2024.12.15

「キノ・ライカ 小さな町の映画館」

http://eurospace.co.jp/KinoLaika/

始まってしばらくして寝てしまいました。といっても悪い意味ではなく、あまりに平穏な感じで自然に眠くなりました。まあ前の日4時間しか寝ていなかったのが悪いのですが。

それでわかったことがあります。映画を見るときは緊張と高揚を伴っているのが普通です。静かな進行の映画であっても、逐一シーンの意味を考えたりすることで、見る方の頭はかなり活動的になっています。

ところが本作は、そういう姿勢をやんわりと棚上げさせ、町の住人のごく普通の日常を浸透させてきます。そして最後に、映画とは結局何なのかという単純な問いを投げてきます。ゴダールという有名な映画人が、この問いに答えて、「それは芸術と日常の間のどこかにある。そしてこの映画(本作)にその答えがある」というようなことを言ったそうです。
それを引き取って、本作の作り手は、映画は人々の会話のほくちであり刺激であるというように結論付けています。なるほどそうも思えます。

あくまでもおとなしい雰囲気で淡々と進み、最後にその意味を教えてくれる作品でした。最後のシーンの前に、ジャームッシュが対談みたいな形でいろいろ話していて、ああそういうことなんだなという納得感があってよかったです。

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