2025.05.12

「新世紀ロマンティクス」

https://www.bitters.co.jp/romantics/

数十年前には、日本にも同じようなカテゴリの映画があったと思う。終戦後しばらくして経済成長が胎動し始める頃から高度成長の終わりまでを駆け抜けた、ひと昔前の世の移り変わりを走馬灯のようなコラージュで映し出す作品だ。本作はそれと同じで、改革開放以降から現在までの中国の移り変わりを映し出している、ように見える。見えるというのは、私は中国の実情を知らないので、これがどの程度実際を反映しているかがわからないからだ。ただ。形式としてはそのタイプなので、おそらく中国もこのとおりの歴史を経てきたのだろう。
そう予想して見に行って、その通りのものを見てきたという感じ。

ただ、それとは別に、本作の時間の流れとともに歩む男と女には少し注目してもいいかもしれない。二人とも様々な職業を経験して、結局、社会的に成功したとはいえないつましい暮らしのまま年老い故郷の大同に帰ってくる。けれども、男がその苦難の人生を顔と体に刻んで老いたのと対照的に、女の方は苦難に耐えながらも覇気と生気を失わず、真っ直ぐ前を見つめている。その違いを際立たせるのも作り手の意図だったろうか。

淡々とした流れの作品でした。

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2025.05.04

「SISU/シス 不死身の男」

https://happinet-phantom.com/sisu/

AmazonPrimeで

もうノリノリですわ。不死身男がやられてもやられても復活して憎々しい敵をぶち倒していくっていう、北斗の拳のフィンランド版というかね。きっとどこの国にもこういうお話はあるんだろうと思います。

この鉄人がまたじじいであるところに本作の価値があるですよ。じじい負けるな!じじい頑張れ!とつい応援したくなります。

悪役がまたキャラが立ってて、狂犬のような奴、冷酷無比なやつ、いい奴、クズな奴、各種揃って各々の持ち味を最高に発揮してくれます。そいつらを血みどろのじじいがぶち倒していく。

すかっとするというのとはちょっと違って、あまりに汚いのでスカッという感じではなくて、留飲が下がるというかそんな感じです。全部おわったらじじいはとにかく風呂に入れ。そういう感じで見終わっておおいに満足しました。

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2025.05.03

「サンダーボルツ」

https://marvel.disney.co.jp/movie/thunderbolts

フローレンス・ピューを見るために行くようなところはあって、実際、彼女の見せ場がたくさんあったのでその点は満足です。

私はシアーシャ・ローナンが好きで、その線で「ストーリー・オブ・マイライフ」を観たのですが、そこでフローレンス・ピューを発見したわけです。他の3人とは段違いに輝いていましたね。役柄のせいもあるかもしれませんが。

さて本作はというと、そのピューが今後のマーベル映画を引っ張っていく顔になるお披露目のようなものなんだろうかと思っていました。が、作品としてはあまり高い評価はできません。何が足りないのかと考えたのですが、むしろ何が過剰かを考えるとわかりやすいです。

お話は、ある一人の超人の暴走を中心に展開するのですが、彼の外向きのパワーは法外で、サンダーボルツの面々では歯が立ちません。そこで彼の内面に侵入して説得工作を行うわけですが、そういう展開は正直言って面白くない。おまけにそれが長い。アクションでこの部分を表現しようとしているのはわかりますが、あまり見ていてワクワクするものではないです。

そういうわけで、MCUの先行きに暗雲が垂れ込めているのを見てきた感じがしました。エンドロールの後のおまけが「4」なので、なおさらです。マルチバースは失敗だという意見もある中で、ほかにいい手も浮かばずにずるずると続いていきそうです。

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2025.04.30

250430箱根行

今日は最終日のつもり。昔のようにがつがつとあそこも行こうここも行こうという気持ちが消えているので予定は延長しない。どこかで充電してから箱根を超えてもうひとつくらい温泉に浸かって帰ろうというくらいの見通し。

ところが充電できる場所が見つからない。昨日のイートインのコンビニがどこだったか覚えてないのだ。Mapsでコンビニの場所を出して回ってみるのだが、どこへ消えたのか見つからない。最近のGoogleは地図で検索しても全部出さない、というか縮尺によって出たり出なかったりすることが多く使いづらい。まあユーザーも贅沢になったものだ。

仕方なく大きな市街地へ出ることにして、三島市を目がけて南下する。結構な時間をロスしてしまった。三島駅前はバイク侵入禁止で、嫌な予感。幸いタリーズがあったのでコーヒー飲みながら充電祭り。私のような風体は珍しいのか、そこはかとないdenyalの空気も感じるが、都会のような無関心でないのはいいことかもしれない。スタッフに外国人がいないのも地方都市ではまだ普通なのだろうか。ツーリングの汚い恰好で店の雰囲気を壊して申し訳ない気持ちもあって高めのメニュー注文でバランスを取っておく。昔に比べると自分、随分良心的になったな(笑

ここからは国道1号をひたすらいけばあっさり箱根八里越えられる。途中三嶋神社の横を通るが今回はパス。頼朝が最初に挙兵した(そして負けた)由来のある神社だ。新緑がまぶしい広い境内が目に入った。坂をずっと上っていくと、三島スカイウォークというのがあって寄ってみる。絶景の富士を吊り橋の上から眺められるのだ。今日は雲一つなく素晴らしい景色だった。吊り橋の向こう側はアウトドアパークがあって、いろいろ面白そうなアクティビティがあるのだが、おっさん一人で挑むのは世間体もあるしやめておいた。

ロングジップスライドというのは渓谷に差し渡したロープに滑車を掛けて、高低差を使って豪快に渡っていくアクティビティで、吊り橋の上からこれを見物できるのだが、すれ違ったカップルの女性の方が「あれはやらないからね」と連れに釘を刺しているのが微笑ましかった。あれ、男の子ならやりたいよねえ(笑

見物も終わったし、残りの上りを終わって芦ノ湖畔に出る。観光地価格のワカサギフライ定食を湖を眺めながら食べる。ここのワカサギは宮中への献上品だとかで、ワカサギのことを公魚と書くそうだ。まあ食べてみると普通のワカサギでした。

ここからは国道1号を離れて旧東海道を下る。途中、箱根細工の店が並んでいる。駐車場のある1軒に入って箱根細工のマグネットを土産に買う。子ども達が目ざとく見つける様子が思い浮かぶ。

ずっと下ってきて、今日の目的の日帰り湯「湯の里おかだ」に立ち寄る。道よりさらに低い渓流沿いの狭い敷地に建て込んだ昔風の温泉地だ。反対側の斜面を登ったところに日帰り湯がある。屋内の湯船はひとつだけで、ほとんどが露天だ。外国人もいて、入り方がわからないようだった。最初、サーフパンツを履いてうろうろしていたが、周りを観察してパンツは脱ぐらしいとわかったようだ。次に湯に足先を入れて見るのだが、熱くて抵抗があるらしく、入れないでいる。あちこちの湯船を回っても入れそうなところがなく、打たせ湯にチャレンジしてみることにしたようで、そこからはだんだん慣れていった。日本人も海外に行けばいろいろチャレンジの連続なんだろうな。。あとでわかったのだが、日本人女性のグループと一緒だったらしい。風呂の入り方は・・教えてもらえなかったんだろうな(笑

もうすっかり満足して、あとは帰るだけだ。高速に乗って1時間ちょっとで東京。近いなあ。1泊くらいの予定でもっとちょくちょく来てもいいのかもしれない。久しぶりの箱根でした。

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2025.04.29

250429箱根行

明けてみると雨は上がって、雲はあるが空は晴れている。でも峰にはガスが掛かっているからスカイラインからの眺めは期待できなさそう。

濡れそぼったテントを畳んで出発。たいてい次の野営地で乾くからあまり気にしない。昨日も書いたが、西洋人中国人それぞれのグループはどこも登山者の出で立ちで、朝っぱらから歩き出す気満々だ。朝早いのが自慢の私よりさらに早起き。日本は全体的に随分緩くなったのかもな。

さてスカイラインがダメになったので、山を下りて市街地でまったりしてみることにする。以前はがつがつと山歩きするのが主だったが、歳を取るにつれてしんどく大人しくなり街中で過ごすことが多くなった。御殿場、裾野、箱根湯本、湯河原と選択肢はいろいろだが、とりあえずまだ通ったことがない裾野市へ。スマホの充電もしたいからね。イートインのコンビニに運よくコンセントがあったので一息つく。最近はコンビニでもコンセントがないところが多いのだ。充電タイムはPCでニュースを見たり旅行記を書いたり今日の野営地を探したりする。

GoogleMapsのおかげで宿探しは実に楽になった。昔はツーリングガイド本を睨んでえいやで決めていたところが、いまは結構詳しい情報もMapsで写真付きで見られる。ガイド本を携行しなくなって久しいが充電が必要なのが玉に瑕ではあるけど。古いモバイルバッテリでスマホ1回分くらいはなんとかなるとしてもPCの充電はコンセントからでないと難しい。バッテリも新調したいなあ。

いろいろ見比べて大野路というところにしてみる。広そうなサイトだし。電話して予約してエンジン掛けてスタートまで10分。充電も8割くらいできた。移動は地図上だと結構距離がありそうだが、バイクの足だとあっという間だ。

この辺りは工業団地のようで、なだらかな土地に低層の建物が点在している。裾野の名のとおりで、富士に向かって緩やかな上りの地形なのだ。東から南向き斜面で暮らしやすそう。途中パノラマラインという道があったので寄り道してみると、富士に向かって直線道路が通っている。晴れていればきっとすばらしい景色なのだろうけれど、残念ながら御山は雲で覆われている。

キャンプ場についてみるとこれが大当たり。空も土地も広くて清々しい。芝生は柔らかくてうれしい。水は富士山の伏流水で冷たく爽やか。そして明日から始まる連休の前ということで空いている。明日以降は予約満杯で250台くらいの予約が入っているらしい。今日はサイトを区画して番号を振っていく作業中だそうだけれど、今日は好きなところに設営してよいとのことで、サッカーグラウンドくらいの芝生の区画がいくつもある中、そのひとつを一人で独占して気分がいい。日差しも暖かくてテントもすぐ乾きそうだ。

あんまりいいところなので、もう走り回って観光する気分にもならずまったり過ごす。自分の感覚もようやく人並みになってきたのだろうか。
朝10時から風呂を使えるそうなので、一番に湯につかる。大型の古民家風の食事処もあるが、今は営業していないらしい。昨日の秀明館といい、どこも人手不足なのだろうか。

昼を食べに近くの御殿場駅までバイクを転がしてみる。特に大きな市街でもなく、最近忘れかけていた地方都市の空気を思い出す。東京はどの駅でもすべての密度が高くて実は息が詰まっているのだということは、こういう機会でないと気づけない。知らないうちに病んだりしないように、時々別の時間空間感覚を味わいにくるのも大切だ。

ファミレスの一つに入ったら、窓から富士山が正面に見える席がちょうど空いていて鼻息荒く確保。地元の人は御山を見慣れているからなんということもない席かもしれないが、よそ者にとっては最高の席だ。それに見合う高そうなメニューを頼みましたよもちろん。
晴れた昼間は地面が温まって上昇気流が生まれているから、あれだけ高い山ともなると雲が絶えず湧き出して、山自体の姿が見えることはむしろ珍しいのだろう。刻々と変わる雲を見ているうちに時間が溶けていく。

まったり過ごしたので野営地に帰る。帰り着いた頃、頭上から突然の爆音に襲われる。見ると、オスプレイというニュースでよく見る飛行機の機影がある。すごく低い高度を飛んでいる。農薬の散布でもしているのかと思えるくらい低い。そういえば自衛隊の駐屯地が近くにあるのだった。この空域を何度も行き来している。訓練なのだろうか。
それにしてもかなり低速で飛んでいて、ヘリと違って水平飛行している状態であんな低速で翼の揚力は足りているのだろうかとひとごとながら心配になる。キャンプ場の主に聞いてみると、しばらく前に反対運動があったがいまはもう落ち着いているということだった。まあ、牛が驚くくらいで日常には害はないだろうからなあ。。

日が暮れはじめると地面も冷えて上昇気流もなくなるからなのか、富士山周囲の雲が徐々に消えて雄大な姿が拝めるようになる。しばしのあいだずっとその変化を見ているうちに一日も終わる。あくせくと観光せず、今日はいい過ごし方だった。

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2025.04.28

250428箱根行

このところ草津が多かったので、たまには箱根ということで安直に決まった。いままで箱根というと美術館巡りや雄大な富士を見る目的が多かったけど、今回は日帰り温泉が主目的だ。草津ではビジターでも旅館の温泉を利用できたり街のあちこちに勝手に入れる温泉小屋があったりするけれど、そんなところは昔は珍しかったのだ。
ところが、草津に啓蒙されたのか、あるいはGoogleのお陰で日帰り湯を見つけやすくなったのか、両方の効果だと思うけれど、箱根でも日帰り湯を謳うところがずいぶん増えてきたのだ。以前は偶然見つけた日帰り専門の和泉くらいしか知らなくて、箱根は草津より一段下くらいに思っていたのだが、だいぶユーザフレンドリーになってきた。

そういうわけで、前日は修学旅行の準備みたいにわくわくしながら荷造りして早く寝て、朝4時半に目が覚めて、6時には出発したのだった。

3号渋谷線から東名へ。関越に比べて段違いに楽だ。あっという間に小田原東ICに到着。1時間くらいで来てしまう。
それは見越して湯本あたりで喫茶店で朝ご飯のつもりだったのだが、さすがに朝7時ではどこも空いていない。マクドとかファミレスとかが石を投げれば当たるような東京モンは最初に地方のアツい洗礼を受けたのだった。便利に慣れてしまうとだめね。

いったん小田原市街へ戻ってガストでオンライン新聞を読んだりしているうちに10時。まずはGeminiに聞いて目星を付けていた箱根湯寮へ行く。箱根湯本駅の横手からいきなり斜度21%という怖いような上り坂を水冷単気筒のパワーで駆け上がる。気分がいい。
国道1号を見下ろす崖に巧みに配置された和風モダンっぽい施設は洒落ていて気分が上がる。これは気分優先の新興温泉かと思いきや、湯の方も本物で、指のちょっとした怪我が気がつくともう治りかけている。箱根、やはり有数の温泉地だけのことはある。

ここは休憩室も充実していて、昨年・今年と話題の漫画が全巻揃っていたりする。入湯料はやや高めだが、これを全部読んでしまえばおつりがくるくらい。でも漫画を読みに箱根まで来たわけではないので、チェックだけして次へ行くことにする。

古い印象だと、国道1号は酷く渋滞すると思っていたのだが、ターンパイクと箱根新道に分散されたのか、混んではいたが流れはスムーズだった。8割がたが強羅の方へ行くのと別れて、こちらは1号を芦ノ湖畔へ。湖尻のキャンプ場へ。ここを利用するのは3回目か。1回目はたぶん30年くらい前で、今の洒落た施設ができる前だった。涼しさと景色の良さは昔と同じだが、来てみると半分以上が外国人だ。インバウンドってスーツケース転がしながら観光地巡りするとばかり思っていたら、ここの外国人は装備も本格的な登山者の出で立ちで驚いた。変われば変わるものなんだな。

設営の後、昼ご飯を食べに遊覧船乗り場へ行ってみる。ここの飲食店も外国人であふれている。彼らは蕎麦とかウナギの店を好むようなので、比較的すいている丼ものの店でゆったりする。それでも4組の客のうち日本人は私だけ。どうなっているんだ日本は。まあ皆さんお金を落としていってくれるならいいか。

親子丼を食べ終わった頃、仕事のメッセージがいくつか入ってきて、とりあえずパソコンを開いて対応する。そうこうしているうちに15時を回って、仕事は一応ケリがついた。外はいつの間にか雨。レインウエアはリュックに常備しているから、バイクでも特段困らない。とはいえ、あまりあちこち行ってみる気はなくなる。再びGeminiが教えてくれた箱根日帰り湯のGoogleMapsを眺めていて、秀明館というのが気になる。近いし、今日の仕上げはここにしよう。

で、これが大当たりだった。何も知らずに行ったのだが、ここは石鹸シャンプーお断りの本物の湯治場。客はあくまでも静かに湯治客として抑制のきいた立ち居振る舞いが求められる。なかなかよい雰囲気だ。
湯船がまたすごい。岩盤の下から湧き出てくる湯は、岩で固めた前室にいったん溜められて、そこから二つの浴槽に導かれる。この前室にはしめ縄が張られていて、厳かな神域の風情。

私はいつも烏の行水なのだが、ここの雰囲気に呑まれてつい小一時間、湯につかったり出たりして過ごしてしまった。他の客もじっと黙って虚空を睨んでいるようなのばかりで、おしゃべりとかしたら睨まれそうだ。ここまでやるか。素晴らしい。また来よう。

以前は宿泊も受けていたのだが、いまは17時までの滞在だけということで、今日は私が最後の客だったようだ。

降り続く雨の中、バイクを走らせてキャンプ場へ戻る。
戻ってみると、久しぶりに引っ張り出したテントの防水性能がだいぶ劣化していたようで前室に雨の滴がぽたぽたと落ちてくる。えらいこっちゃ。ということで、床から沁みてくる雨水と標高900Mの寒さとで、あまり眠れない夜を過ごした。

 

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2025.04.27

「HERE 時を越えて」

https://here-movie.jp/

素直に笑って泣けました。最初から最後まで視点をとある家庭の居間に固定して、そこに映り込む映像を通して、3世代にわたる家族の来し方を語っています。極めて特徴的な手法で、たいへん効果的です。

子どもが大きくなり、孫が生まれ、その孫が親世代よりはるかによい社会階層へ上っていく。親はそのことを誇らしく感じながらも、夢を諦めざるを得なかった自分がみじめに思えてしまう。そういう複雑な心境を後半では滲ませて、輝かしい未来に向けて同時代を生きてきた観客の心情に深く訴えるものがあります。

ただ、それだけをクローズアップするのではなく、むしろ子どもを真ん中に据えた楽しい我が家のシーンをふんだんに繋ぎ合わせて、人生の山も谷も等しく感じさせるところがよかったです。晩年は、夢を果たせなかった後悔に囚われて、このまま終わってしまうのかと思ったら、最後の最後になんて美しいシーンを入れてくれるんでしょう。ひたむきに生きてきて本当によかったねと思わず祝福したくなります。

先住民やアフリカ系の家族の歴史も調味料として取り入れながら、人々の暮らしに共通した「命の輪」を謳い上げた良作でした。

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「けものがいる」

https://kemonogairu.com/

初めの方で少し寝てしまったので、最後までいまいちよくわからなかった。時代を超えて同じ男女の魂が何度も惹かれ合うもひとつになれず、それは外部環境のせいではなくて、彼と彼女の内面の問題ー恐怖ー故なのだ、というようなお話らしい。一方がその気になってももう一方が拒否してしまうすれ違いが幾度も繰り返されて、少し飽きる。それでも最後に、とうとう二人の気持ちが同時に高揚して、やっと結ばれるのかやれやれと思ったら、そういう結末かい。おフランスの作品らしくひねくれてますね。でもこのときのレア・セドゥ渾身の引き歪んだ顔などは一見の価値ありでしょうか。

そう。私としてはセドゥの百面相が本作では一番面白かった。時代がかった時代にはそれにあった大袈裟な表情、感情が薄くなった科学の時代には、淡白な表情、その中間くらいの時代には中庸な表情、それぞれの強度にあわせた喜怒哀楽の表情が千変万化でめまぐるしいです。その中で、人形は多く売るために無表情に作っているという問答のあと、彼女が実際にその無表情をすっと実演してしばらく静止するところなどは、目まぐるしい表情の変化の中に異空間を作り出しているようで、ぞくぞくしました。ここは凄いです。

人の感情を有害なものと考え、これを浄化しようとする未来世界というのが設定らしいので、この静止した顔と、先に触れた結末の引き歪んだ顔との対比こそが、おそらく本作の肝なのでしょう。私にはそんな風に見えました。

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2025.04.21

「機動戦士ガンダム 水星の魔女」

https://g-witch.net/

ふと気になってNETFLIXで倍速一気見してみた。2シーズン25話で全部で5時間ほどと手ごろな時間で見れる。

ファーストガンダム以外のTVシリーズは知らないので、まあ、だいたいソフィスティケートした戦争を背景に少年少女の成長物語を描くのが基本路線なのだろうと思っていた。なので、本作は全然違うらしいという話を聞いて興味がわいたのだ。

前半はお金持ち子弟の学園ものにMSという高価な玩具を決闘の道具として持ち込んだような感じだが、後半になると少々血と硝煙の匂いがしてくる。それでも、現場の戦闘よりは企業の合従連衡と陰謀の方に比重があって、まあ今風という感じだった。ちょうど起業がブームになっていた頃だろうから、当時としてはタイムリーだったのかもしれない。それにしても、これは戦争を知らないどころか縁も所縁もなさそうな世代が作っている感触ははっきりとあった。

これを週いちで見ていたら、たしかにいまいちなのかもしれないが、倍速一気見すると違う印象になる。主人公は最初、話し方などは少し障害でもあるのかあるいはひょっとしてアンドロイドなのかと思うくらい不自然だし、母親の言いなり過ぎるところも変な人間らしくない感触があった。それが実は、作られた人だったことがわかって腑に落ちた後、最終話に向けて徐々に人間らしさが増していくのが自我の芽生えのようで面白かった。

最後は少し急ぎ過ぎて、突然勃発する兄弟喧嘩とかは無意味で違和感があるけれど、それ以外はよくできていたのではないでしょうか。

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2025.04.20

「ザ・ディスカバリー」

https://www.netflix.com/title/80115857

NETFLIX

何のジャンルの作品かは、ネタバレになってしまうので言い難い。でも謎が明らかになったあとの恋人達のすれ違いの切なさにじんとくる。翳のある謎めいた役はルーニー・マーラの十八番だけれど、本作でも十二分にその雰囲気を醸してくれました。

2015年の作品ということで、コロナ前だけれど、少し古めかしい感じもよかった。

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