2020.03.30

「ジョン・F・ドノヴァンの死と生」

グザヴィエ・ドランを天才だと言う人は多い。もちろんその通りだけれど、私はむしろ、独創的な人と呼びたい。ものごとを捉える視線や切り口、そして見せ方に、独特なものを感じるからだ。他のどの人とも似ていないと思う。今回もそれを見せてくれました。

特にストーリーが奇抜なわけでもなく、テーマが珍しいわけでもなく、設定が入り組んでもなく、アクションなどとは無縁で、ただ、母と息子とがつくる濃い影が連綿と続いている。濃いのだ。この人の作品は。そして比較的長い。テンポがいいとは言えない。そういう種類の作品ではない。


見ると結構疲れます。が、それに見合う満足が残ります。

そうそう、ちょっと特筆すべきこととして、例によってゲイが何人か出てくるのだけれど、今回はそれを特別なようには描かず、男女の恋人に置き換えてもなんら作品に支障はないような描き方をしていました。

世の中が進化したのか、監督が進化したのか、よくわかりませんが、ごく自然でした。

 

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2020.03.29

「21世紀の資本」

本は読んでないけれど、2013年にフランスで出版されたそうだから、7年前の内容。そういえば日本でも結構話題になってました。

内容については、例えばウィキペディアを見てもいいかもしれません。
https://ja.wikipedia.org/wiki/21%E4%B8%96%E7%B4%80%E3%81%AE%E8%B3%87%E6%9C%AC

映画作品としては、センセーショナルな映像を繋いで興味をそそる構成になっています。合間合間に、経済紙などでよく見るような顔ぶれのインタビューを挟んで説明の流れを作っています。

それにしても、ですよ。資本主義社会に生きる我々は懲りずに毎度同じような成長と破壊とを繰り返しているのだなという感想が思い浮かびます。ある程度避けられないことなのだろうし、振り子が常に揺れ動いていることで、社会の新陳代謝が行われているような気もします。錯覚かもしれませんが。

ただいま現在は、中間層が衰退して貧困の増大と富の過剰な集中が起きているから、振り子を少し戻す必要があるだろうという主張は、大多数の支持するところではあるのでしょう。具体的な手法を巡っては、この本を批判する人たちから否定的な意見が聞かれるのもうなずけますが、ではその人たちが何か有効な別の手法を提案しているのかどうかは、この映画ではもちろんわかりません。

今年始まったCovid-19の禍は、こうした議論にどんな影響を与えるのか、いまはその点が気になります。

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2020.03.15

「エキストロ」

映画のエキストラに焦点をあてて、面白おかしく描いた異色の怪作。吉本興業制作で、微妙な笑いのセンスは確かにそれっぽい。まあ、だからパワーが無くて飽きるのだけど。

ドキュメンタリー風に始まるので錯覚するけれど、警察が出てくるあたりからはっきりフィクションだとわかってくる。そうすると、ちょっと微妙な感じになってしまうのが難点。

とはいえ、有名俳優をところどころに配して、このお笑いに参加させる力技で、なんとか最後まで押し切った。
大林信彦監督にエキストラのロマンを述懐させて結びとしている。

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「星屑の町」

悪くないお話だけど、のんはどちらかというとアイドル的な扱いで、むしろ取り巻きのおっさんたちの生き方を色濃く描いている感じです。

あくまで映画の中の話として、芸能人目指して上京してきた娘が悪質プロダクションの食い物にされて失意のうちに帰郷し、それでも夢を諦めずに再起する、という筋書きがあります。それが能年玲奈の現実とどう関係があるのか、あるいはないのか、それはわからないですが。

映画俳優としてののんは、ちょっとブランクが大きかったかなと感じました。「カラスの親指」からもう8年経ったわけですが。。

ちょっと心残りを感じさせる作品でした。

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2020.03.09

「ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像」

仕事一筋に物事の先を読み、大胆に投資する生き方と、家族を大切に日々労働し、わずかな余剰を堅実に積み上げていく生き方の、つまりキリギリスとアリの生き方の、そして、男と女の、老人と娘の、男の子と母親の、軋轢と葛藤と、そして和解とが語られる良作。老人から孫へ受け継がれる山師の魂、絵画の奥深さへの造詣も織り交ぜられて滋味ある味わい。

スリリングな仕掛けに一旦は成功したかに見えて、最後に逆転の敗北を喫したところまでなら、これは凡百の映画で終わっただろう。けれども老画商の短い物語はそこから先にあった。

賭けに負けて荒んだ日を送る老人の元に、美術館からのメッセージが届くシーンが印象に残る。絵画に署名がなかった理由について美術館は推測する。「画家にとってこの絵は聖画だったのだろう。であれば署名などしないものだ」。それに続くキュレータの述懐が、この映画の白眉だ。

聖画において、個は消滅して、もっと大きなものの一部になる。

全てを失った老画商のささくれだった心に、干天の慈雨のようにその言葉が響いて心の重しを取り除く。彼が全てを賭け全てを失った原因の聖画が、彼に至福を与え、娘との和解をもたらしたのだった。

老画商の一個の生は、悲しい結末を迎えたというのに、その直前の晴れやかな振る舞いはどうだろう。そういう風に一生を終えたいものです。

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2020.03.01

「チャーリーズ・エンジェル」

「チャーリーズ・エンジェル」
https://www.charlies-angels.jp/

ちと差し替えです。

前のシリーズは、キャメロン・ディアスが中心軸としてしっかり立っていたけれど、それより何世代か後の時代を描いている本作は、明確な中心キャラクタを置いてないように見えます。女たちの集団による秩序、という感じ。なるほど世界は少しづつ変わってますね。

そして、前シリーズが男目線をかなり意識していたのに対して、本作はかなり女目線に寄っています。マッチョ感がなくて、代わりにスタイリッシュな感じが濃い。ファッションモデルばりの顔立ちのクリステン・スチュワートがそこを強く押し出しています。マッチョな感は長身のエラ・バリンスカさんの受け持ちだけど、やっぱりパワーより技巧が前に出ています。ナオミ・スコットは頭脳。いまや映画のキャラクタとしては欠かせなくなったギークの担当です。そしてもう一人、前のシリーズにはなかった戦略・ロジ担当とでもいうべきものが、エリザベス・バンクスさん。これ、なかなかいい構成だと思います。戦略を考える人間が、黒幕ではなく半分表に出てきているのは、現代を感じさせます。そしてこの人が俳優だけでなく監督・脚本も務めている。なるほど、だからこその女目線か、と納得します。

興行的に振るわなかった理由は、裏をかえせば、その女目線かもしれないなとも思います。なんだかんだ言っても、まだ女の時代は来ていない。まあ、日本だけでなくアメリカもそんなところでしょうか。

でも私はこの映画、割と好きです。煌びやかでファッショナブルな面が、分からないなりにいいなと思える。そういうところを見る人がもっと増えると、こういう作風のものも増えてくるのではないでしょうかね。

 

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2020.02.29

「シェルブールの雨傘」

台詞をすべてメロディにのせ、全編音楽だけで通すという手法に、はじめは抵抗がありましたが、見ているうちに慣れてきて、これが「原型」である感が強まりました。面白い効果ですね。

カトリーヌ・ドヌーヴの出世作。
シンプルで美しい、男と女の切ない物語の原型。

デジタルリマスター版ということで、結構綺麗に出来上がってました。
ああ、あの歌はこの映画の主題歌だったのか、という再発見も。

 

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2020.02.23

「ミッドサマー」

まあカルト映画のようではあるのだけど。

本作は筋金入り。早い段階から全面的にカルト一色になる。そもそも舞台が北欧の山奥のカルトの村。少数の現代文明人はその中では、電波や車など文明の利器を持たない全く弱々しい存在として取り込まれていく。

こうなるとお話はもう民話などに出てくるおどろおどろしさそのままになってくる。白夜でほぼ一日中明るく、真っ白な装束で笑顔を湛える人々のただ中で、民俗学が扱うような未開の信仰に基づいた儀式が進行する。

エデンの園から追放された文明人からすれば、それは迷信からくる惨たらしい、あるいは恥ずべき行いでしかない。しかし、自然崇拝、大家族(または部族)主義の世界観を持つ人々にとっては、それこそが生の在り様であることに疑う余地はない。


そういう筋書きなので、これはもうどこかで見たことがあるような展開ばかり。正直、途中で飽きました。一応最後まで付き合って、疲れた頭で帰り道考えてみると、実は意外なことに気づいてしまう。「○○は与え、○○は奪う」というのが、このお話の基調に流れているのだが、それは現代人が気に掛けている環境負荷の話と同根ではないかということに。

命は与えられると同じ分量だけ奪われなければならないとすれば、新しい命が生まれるのと引き換えに、いま生きている者を間引かなければならない。彼らカルトの村の人々は、間引く命の決め方をルール化して粛々とその儀式を執り行っているに過ぎない。そこに何のわだかまりも迷いもあるはずがない。環境に負荷を掛けないという善行を成しているのだから。而して当然ながら、間引きは殺人としか受け取れないキリスト教的文明人との間で、摩擦が生じることになる。

環境負荷の問題を真摯に考えるほど、実は、人間をこそ間引くべきなのではないか、という考えに行き着き悩むことになる。本作の主人公の女性が、残酷な儀式の末に、最後に晴れ晴れした顔でほほ笑むのは、間引きは罪ではないどころか自然の摂理であると悟った末のことなのだ。

ぞっとするべきなのだろうけれど、そうでもない自分がちょっと嫌ですw

ちなみにwikipediaによれば、本作の監督さんは、「「ダニーは狂気に堕ちた者だけが味わえる喜びに屈した。ダニーは自己を完全に失い、ついに自由を得た。それは恐ろしいことでもあり、美しいことでもある」と脚本に書き付けている」のだそうです。西洋のキリスト教の楽園を追放された後の人ですね。

 

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2020.02.22

「1917 命をかけた伝令」

いわゆる3人称視点ゲームを、映画でもやってみた、といった趣。

それだけの話なのだけど、さすがに映画だけあって、様々なシーンが印象深い。特に夜の廃墟の街が照明弾で照らされているシークエンスは、これだけ鮮やかで連続した映像を、ちょっと他で見た記憶がない。主人公が走るのに追随して視点が移動していくのと、照明弾による変化する陰影とが合わさって、独特な映像になっている。ビデオゲームならよくあるのかもしれないが、実写のリアルな映像で見せられると凄い。

全編ワンカットは、緻密な計算と寸分の狂いもない行動の賜物だろう。ピラゴラスイッチを見ているような緊張感がある。途中何か所か息継ぎはあったものの、最後まで走りとおした。

でも、ですよ。
私はこういう映像は苦手です。酔うので。DOOM以来こういうのはだめなんです。もちろん「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」もだめ。VR映像とか、全くだめ。見ている最中から、吐き気やだるさがあって、見終わっても数時間は回復しない。知ってたら見なかったわー。

まあでも、技術の効果は面白うございました。

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2020.02.21

「スキャンダル」

はじめに、実際の事件に着想をえているけれど、フィクションだよーん、というお断りが出ます。何しろ、セクハラ訴訟を起こした元美人キャスターは巨額の和解金と謝罪を受け取る代わりに守秘義務を負ったので、この件について何も話すことはできないのだそうで。

むしろそのことは、映画作品の作り手に良い意味で自由を与えたと思います。話の流れに淀みは無く、扱っている主張や立場も、この種の話にはありがちな定型。

もちろん、よくできた作り話というつもりはありません。これに近いことが、たぶんあったのでしょうから。嫌ですねえハラスメント。

和を乱すことを恐れない一握りの勇気ある人たちのおかげで、こうして歴史は少しづつ前に進んでいくのだ、という感じが出ていてよかったです。米国の場合はその勇気に対して相応の報酬が得られる場合があることも描かれています。ここは事実のとおり。日本だとたぶん、声を上げた最初の人は、和を乱した罰として人生を棒に振ったりするのでしょう。一揆の首謀者は訴えが認められるかどうかに関わらず死罪みたいな。

いや、米国でも過去にはそうだったのが、この一件でそうではなくなったようだから、お国柄に関わらずやはり少しづつ進歩しているようです。それを見逃さないければ、この映画を見た意味もあったというものです。

ハリウッド至宝の三大女優との謳い文句、大げさではなく凄いですね。とりわけシャーリーズ・セロンは出番が多いこともあるけど、見ているだけで飽きません。最初にFOXというメディアの権力構造を彼女がざっと解説するのだけれど、のっけから観客のハートを鷲掴み。それだけでもう作品の流れは決まったみたいな。アカデミー主演女優賞を取るだけのことはありました。

 

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