「ブラック・ダヴ」
https://www.netflix.com/title/81682935
NETFLIX全6話
スパイ映画も少し食傷気味だったけれど、ベン・ウィショーが出ているとなるとやっぱり見ようかという気になる。一応ゲイの人らしいんだけどね。
本作はスパイといっても007みたいに何か巨大な陰謀に立ち向かうかっこいいエージェントが活躍するわけでは全くない。いや、陰謀は一応、お話の舞台をつくる道具立てとしてあるけれど、そちらの結末は大山鳴動して鼠一匹拍子抜けの感がある。
むしろ本作では、スパイ稼業と周辺の暗殺業にいそしむ人々の、極めて人間臭い面をつらつらと描くのが本筋だ。本物と偽りの恋があり、家族への愛があり、非情な掟と守るべき倫理とが錯綜する。なにしろ登場人物たちの過去を振り返るだけで、全体の三分の一くらい使っているのだから。それだけの長さを使っても、語るべき意味、現在へと連なる綾を見せるのが味わいだろうか。
そういう話を延々と聞かされているうちに、様々に連想が働く。このスパイ(表の貌は英国政府高官の妻)が、誠実で何も知らない夫から、自分は君の全部を知っているわけじゃないと言われる場面があるのだが、考えてみると夫婦というものはおしなべてそういうものではないか。妻が巨大な陰謀に立ち向かっている百戦錬磨の女スパイでなくても。
あるいは、キャリアの出だしが父親の暗殺で、その功績で組織に認められながらも、まさにその父が残した倫理観ゆえに組織に反抗する暗殺者は、普通の組織人が誰しも抱える葛藤によく似ていないか。
考え過ぎかもしれないけれど、組織と個人、仕事と生活の関わり方に類することが、様々に頭の中を巡って刺激をくれる、そんな風な作品でした。