2018.02.10

「ライオンは今夜死ぬ」

流して見ると、何がなんだかよくわからないが、少し立ち止まって考えると、なるほどと頷けるところがある。

彼女はたぶん彼を、日本民話風に言うと、とり殺しに来たんだろう。
とり殺すと言うとちょっとおどろおどろしいが、そこはまあ南仏だし、そうさな・・あの世へいざないに来た、とでも言っておこうか。あなたもう歳なんだし、そろそろいいんじゃない? みたいな。

これはね、生きる希望を失いかけている男には効きますよきっと。
実際、蝋燭の光と闇がまざった部屋のシーンなんか、鬼気迫るものがあるし。

という具合に下地をつくっておいて、さて、それとはまるで別の世界の住人たる子供たちが、対置されているわけです。天真爛漫、屈託がない、光り輝く、さんざめき、そういう言葉そのものが踊り跳ねているかのような子供たちが。

この陰陽の対比はとてもいい具合ですよ。

彼は子供たちのおかげで、もうちょっとこの世にいようかなと思うわけだ。
そんなことは一言も口にしない代わりに、ライオンの歌を歌って心情を吐露するのです。

彼女はそれを悟って湖へと消えていく。「じゃね」という軽い口調で、まあ、いずれはこっちへ来るんだし、もうちょっと待ってもいいわ、みたいな。でもちょっと惜しかったな、もうちょっとだったのに、てへぺろ、みたいな。

君が若くして亡くなったのは本当に残念だ。でもそれは人の運命というものであって、僕にはどうしようもないことなのだ。君を追ってあの世へいくことなんて出来はしない。
そんなことは一言も口にしない代わりに、彼は海の歌を歌うのです。

彼女に取り込まれれば、それはそれで湿っぽいいい話だし、
まあ、また今度にするよとなれば、それはそれで、からっとしたいい話。

ライオンはどこにでもいるということも、子供の中の一人を通して触れられていて、少し襞もあった。

南仏という光のイメージにとても似合う素敵なお話でした。

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2018.02.03

「羊の木」

いがらしみきおと山上たつひこによる原作漫画があるそうな。だからなのかどうか、設定、展開、オチ、全てが漫画的なものを感じさせる。

普通の映画というものとどこが違うかというと、層の積み重ねがなく、取っ散らかっている印象がある。朝のテレビドラマや週刊連載の漫画のようなというか。大きな流れというものがない。まあ、それはいい悪いではなくて、そういう表現形式だということなのだろうけれど。

お話はよくも悪くもない。刑務所で服役中の人が一体何人いるのかしらないけれど、それが過疎の解消に役立つボリュームとも思えないが、まあ、漫画だしということでいいんだろう。

たぶん、この映画に価値があるとすれば、犯罪者という区分に入ってしまった人にも、いろいろいるということをじっくり描いている点だろうか。羊の木の絵柄の蓋だか皿だかに、羊が5匹しか描かれていないのは、登場する元犯罪者6名のうち、5名くらいはまあ更生できるけれど、1人くらいは救えないケースもあると言いたげだ。

まあ、仕方がないよね。環境が激変したら、ひょっとするとその1人が次の人類の始祖になるかもしれないのだし。

てなことを、映画とは関係なく思いました。
幸いというべきか、サイコパスとも服役囚ともこれまで縁がなかったので、感想も表面的になります。

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2018.02.01

「スリー・ビルボード」

これはいい映画。滋味がある。
娯楽映画ではありませんので誤解なきよう。

取り返しのつかない後悔とか、やり場のない怒りとか、そういう心に刺さったままの棘と、どう付き合っていったらいいのか。
そういうことをつらつら考えながら見る作品。

激さない。けれども折れない。それほど怒りは深い。
世俗の神とその手先など最初から敵に決まっている。
周りはすべて敵かと思うと、意外な味方がいたりする。

反省する? 悔い改める? まあそれはひとつの方法だけれど、それでも間違いを繰り返すのが、凡庸な我々の定め。

それでも最後は、時間を味方につけて、少しづつゆっくり、「道すがら考える」で終わっているのが、とてもよい。

癒えない傷を持つすべての大人に、赦しと救いを教える映画。

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2018.01.28

「祈りの幕が下りる時」

泣けるぼろ泣ける。
東野圭吾読まなくなって久しいけど、こんなのも書いてたのかあ。

「麒麟の翼」は見たけど、あまりいい印象ではありませんでした。理知的過ぎ、整理され過ぎというのが当時の印象。しかし本作は全く違います。見直しました。

技巧的なのは相変わらずで、前半は登場人物が入り組み過ぎてついていくのがやっとだけれど、後半は親子の情を前面に出し続けてうまくまとめています。

自分を犠牲にしても子どもの幸せを願う親の強い想いというのは、少子化時代を迎えた近代の我々のひとつの帰結なのでしょうか。

そして、親に感謝しつつも、生き疲れて常世の生を願う親に手を貸すのは、高齢化社会を迎える我々の帰結になるのでしょうか。

難しいです。

そこのところを、きっちり対照的な構図として見せているところが、すばらしく理知的です。そしてその理性臭さを臭わせずに泣かせる物語に仕上げたところが凄いです。理も情も弁えて物語を紡ぐ力はやはり超一級。

ちなみに、主人公の刑事の台詞「俺はマザコンだからな」というのが本作のミステリを解く鍵だとすれば、容疑者のファザコンこそが本作の事件の源になっているのも妙に対照性があります。どこまでも巧みに要素を組み込もうとする作家の習い性なのでしょうか。削り落とす美意識はないのでしょうか(笑)

役者も誰も彼もがいい演技で、素晴らしい出来のミステリがまた一本。
邦画って本気出すと質が高くて嬉しくなります。

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2018.01.27

「デトロイト」

いやーな気分になること請け合いのレイシズム批判映画。
ウィル・ポールターが憎々しさ満点の演技ですばらしいです。

で、人種差別批判はまあ政治的に正しい姿勢なんだろうけど、先日の日経に載ったThe Economist の記事にもあったように、難民はほとんど受け入れていないとか、外国人技能実習と称して法的に弱い立場の人たちを安価にこき使って使い捨てることを一部見逃している我々は、偉そうに他国を批判するのは気が引ける立場なんであります。

弱ったね。

他人と自分は違うことを認めることは大切な基本姿勢だけれど、ものには限度というものがあって、誤解を恐れずに言えば、ある程度似通った人たちが集まって暮らすことも同じくらい大切であると、生活の安寧という点から見れば言わざるを得ないだろう。

米国はその点で確かに人工の実験国家だし、あの多様過ぎる多様性を受け入れていこうという姿勢は尊敬というか驚嘆に値する。だから、少し疲れが見えてきて、3割くらいの人が頑強にトランプ氏の考え方を支持するのも理解できる。

歴史は終わったなんてとても言えない、これからどうなっていくのかwktkであるといったら不謹慎でしょうかね。

これにテック系の変革がかぶさってくると、ほんと、どうなっていくんだろねー。

ちょっと放言しました。いつもだけど。

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2018.01.20

「嘘を愛する女」

胸キュンだなあ。
ちょっとタイトルの語感とは違う。もっと純愛に近い感じ。

前半までは、この生意気女の必死さが伝わってきて、それが、名前も素性も知らなかった相手に対する愛情を自覚する過程になっていて、とてもいい。

ところが、真実のすぐ近くまで来たところで足踏みしてしまうあたりから、少し失速した気がしました。お話がやや陳腐に過ぎたのかも。

でもまあ、いいんじゃないでしょうかね。好きですよこういう挫折から道端の真実と安息を見付けてそこに落ち着くような話。

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2018.01.14

「幼な子われらに生まれ」

もちろん、いうまでもなく、いい作品。
離婚した元妻の旦那が危篤で、子供に引っ張られて見舞いに行った場面では泣けます。こいついい奴だなと。

大人も、子供も、それぞれの繋がりの形や強度があって、それをきちんと描き分けていることが、良作だなあという実感を生み出していると思います。

さはさりながら。

これを見ていると、我々がいかに核家族というものに囚われているかということが、強く思い起こされて、微妙な気分になるのです。

主人公の再婚した妻がまさにその象徴。その元夫がやさぐれる気持ちもなんとなくわかってしまうところに、自分の危うさというか、核家族を中心にしたイメージとの齟齬を感じてしまいます。

我々はこんなに核家族というものに縛られていたっけ?という。

多くの人が薄々それに気付いているからこそ、少子化がここまで進行したのではないかなと思ったりもして、何かこう喉元に突きつけられるものを感じたりもします。

良作なんだけれども、素直に見られない、そういう気持ちです。

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2018.01.07

「キングスマン:ゴールデン・サークル」

つまらなくはないし、独特のテイストがあると思うし、アクションシーンのテンポによさといったら、前作同様なかなかのものだけど、なんだかこう、引っかかりがないというか。前作もそうだったけど、記憶に残らない。不思議と言えば不思議。

このシリーズは人がどんどん死ぬ。敵も味方も面白いように大量に死ぬ。そういう題材だからといえばそれまでなのだけど。

案外、そういう点にリアリティの無さを感じて、無意識のうちに記憶から追い出してしまうのだろうか。

よくわからない。

スタイリッシュにしようとした結果、ご都合主義に嵌まってしまっているのかもしれない。

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2018.01.06

「嘘八百」

東京のたこ焼きと大阪のそれとの違いは、たぶんダシにある。大阪のは隠し味があるのだ。

笑いもそうなんじゃないかと時々思うことがある。笑いの中に味わいがあるかどうか。どんな味を添えて、どう盛り付けるか。その巧拙が問われる。とわかった風なことを言う。

本作は、その視点で見ると、なかなかいい出来だ。笑いをまんべんなくまぶしながら、物語に骨があって筋が通っている。最後の締め方もいい。

中年から年配者は思わずにやりとするところがたくさんあるだろう。
若者絡みの部分はわざと質を落として、青臭さの演出も抜かりない。

初笑いに好適な一本でした。
こういうの見ると、邦画もいいよなあと思う。

もちろん、東京には東京の良さがあるとは思うけど、味わいではいつも歴史の深い西の方に一日の長があるかなあと思います。

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2018.01.02

「アランフエスの麗しき日々」

正月にとっておいた、ヴィム・ヴェンダースの小品。
しかし小品というのはあくまで、製作費とか宣伝の派手さとかを基準にした言葉。観てみるとずっしり見ごたえがあってすごい。

原作があるそうなのだけど、それを差し引いてみても、作品を作るときに考えていることをさらけ出したように見える。画家がスケッチブックやアトリエを人に見せるような感じというか。

だから、映像的な技巧は最小限で、ほとんど台詞と少しのカメラワークだけによる構成。

ヴェンダースの作品はここからはじまって、これに肉付けしていって出来上がるもの、とでもいうような原初のかたち。

ヒトの神性について語る場面もあれば、ロマンスと愛憎を吐露するパートもあり。はじめは女の視点から、ところどころ男の視点から、それぞれの述懐があり。楽園追放のような、あるいは青い鳥のような回帰への願望があり。

最後は、あれは何を意味しているのだろう。少しだけ、現代社会がそれとなく目指し始めてしまった不気味な未来を示唆しているのだろうか。

「あるいは最後の夏かもしれない」


ともあれ、エラいもの見てしまった。

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